長野市の認定こども園 古牧東部保育園が、恵まれた広さの園庭を「学びの園庭」へと造り替えた。見守る保育(藤森メソッド)を20年以上実践してきた同園が、室内環境づくりで積み重ねた考え方を、屋外にまで広げた取り組みだ。子どもが目的を持って遊び、経験から学ぶ園庭は、どのように生まれたのか。園長の渡邉徹さんに話を伺った。

広い園庭をどう生かすか

Playground

— 今回、園庭を「学びの園庭」というテーマで造り替えられました。以前は、どのような園庭だったのでしょうか。

渡邉園長:もともと園の周りは水田が多い土地でした。田んぼをやめられた農家さんから少しずつ土地を譲っていただいて、駐車場になったり、園庭が広がったりしてきたんです。広さだけなら、十分にありました。ただ、その広さを生かした保育ができていたかというと、できていなかったんですね。

学校の校庭のように、ただ広い空間があるだけでは、年に一度の運動会のための場所になってしまう。この空間はあまりにもったいない。藤森先生もそうおっしゃっていて、まさしくそうだなと感じていました。

— 木を植えるような取り組みは、されていたのですか。

渡邉園長:少しずつ木は植えていました。でも、こちらにプランがないまま、地元の植木屋さんにお願いしていたんです。植物の専門家ではあっても、それを園庭にどうデザインしていくかというノウハウは、彼らにはありません。

かといって、我々が一から勉強しようとすると、ドイツまで見に行くくらいの時間がかかる。保育の業者さんでも、そこまで明確に提案してくれるところは、本当にありませんでした。園長先生ご自身の勉強で園庭を充実させている園は見たことがありますが、では同じことが自分にできるかというと、とてもできなかったんです。

— そんなときに、「学びの園庭」という考え方に出会われた。

渡邉園長:ちょうど藤森先生が「学びの園庭」を打ち出されたところでした。見守る保育の中では新しく、ここ5年10年で出てきた考え方です。それが藤森メソッドの大事なパーツとして語られるようになって、同じタイミングでジャクエツさんとのコラボレーションも始まった。これはいいぞ、と思いました。

ジャクエツさんは、こちらのイメージを伝えるだけで、いくつも絵を描いてくれるんです。「こういうことを考えているんだけど、どうだろう」と相談すると、「こんな園庭はどうでしょう」とプランを出してくれる。それが今回の造り替えにつながりました。

— 見守る保育を導入されて、どのくらいになりますか。

渡邉園長:もう20年になります。かなり早いほうだと思います。お部屋の中の遊びの環境は、20年かけて研究を重ねてきました。遊びのゾーンやコーナーが充実してきて、今では藤森メソッドでなくても、そうした室内環境を取り入れる園がずいぶん増えています。次は園庭です。室内と同じように環境を設定していこうという流れは、ここ5年くらいのものだと思います。

思いが図面になっていく

Drawings

— 藤森先生の監修のもとで進む学びの園庭は、初めての試みだったそうですね。

渡邉園長:本当に走り始めたところでした。運命的なタイミングだったと思います。草も木も、ちゃんと子どもたちの学びになるように、一緒に選んでいったんです。色水遊びに使えたり、なった実をクラフトや工作に使えたり。休んでほしい場所には、そういう思いがちゃんと込められている。おままごとや水遊びの設備だけでなく、園庭全体をデザインする提案だったのが、何より良かったですね。

— 漠然としていたイメージが、図面になっていく。その過程はいかがでしたか。

渡邉園長:頭の中で思い浮かべているものが、具体的な図面になって出てくる。やっぱりプロだなと思いました。「こういうものができます」と形にして見せてくれると、あとはお互いの思いを、予算も含めてすり合わせていくだけです。そこからは、本当に楽しかったですね。

— 土地の土壌にも、課題があったと伺いました。

渡邉園長:うちはもともと、植物が育ちにくい土壌だったんです。なかなか木が大きくならなかった。それを、土の専門家の方が、土を入れ替えればちゃんと育ちますよと提案してくださって。おかげで、島がポンポンとできあがりました。

園庭は年々変わっていきます。去年と今年でまったく違う。もともと撒いていたコスモスが学びの園庭と重なって、彩りがぐっと良くなりました。

Design That Takes Advantage of the Topography

— 島を造り、地形を生かした設計も特徴的です。

渡邉園長:島をしっかり造って、そこに木を植えました。根が張る部分を確保できたので木にも良かったですし、立体感も生まれました。学びという以上、雑多に遊ぶのではなく、きちんとゾーニングして、「ここはこういうことがやりやすい場所だね」というのが、それぞれにある。

Gacha Pump

あとは、ガチャポンですね。雨が降ると、地面に自然と水の道ができる。少し凸凹した地形を生かして、その川上にポンプを置いたんです。そうすると、そのまま川が作れる。園庭によっては、水の道ができるのを嫌う方もいます。平らにしておきたいから。でも逆に、それを遊びにしてしまえば、雨の日が楽しみになるんですよ。

経験でしか身につかない

— 造り替えの前と後で、子どもたちの動きに変化はありましたか。

渡邉園長:ありますね。遊びに集中するようになりました。目的を持って遊べる。「ここに来たら、こういう遊びができる」と分かっている。原っぱに行けばバッタがいて、虫を捕まえたり。やっぱりゾーニングです。室内の環境づくりと同じなんだな、と感じます。それに、いろいろなことに気づき始めるんです。部屋の中と違って、実がなる、葉の色が変わる、花が咲く。虫の幼虫を見つけて「これ何だろう」と言っていたり。四季で変わり、年々変わっていく。木もこんもりして、だんだん森らしくなっていくと思います。

Picking Flowers

— 一方で、子どもが花を摘んだり、枝を折ってしまうこともあります。どう向き合っていますか。

渡邉園長:僕は、なるべく寛容でいたいと思っています。頭ごなしに禁止するのか、それとも「木がかわいそうだよね」という方向に持っていくのか。子どもって、何かきっかけがないと、その気持ちにはならないんです。最初から保育士が「絶対に折らない」とルールで決めてしまうと、その子の心の動きが見えなくなってしまう。多少の失敗は、多めに見てあげたいんですね。

— 大人が先にルールを示したほうが、早いようにも思えます。

渡邉園長:早いんですけど、それだと丸暗記に近いんですよ。「言われたからやらない」だけになってしまう。自分で失敗して、「ああ、こうだったな」と思わないと、身にならない。虫にしても同じです。最初から「虫を殺すな」と言うのと、殺してしまってから「かわいそうだね」と気づくのと、どちらが心に残るか。虫には申し訳ないけれど、そうやって育っていく過程が大事だと思うんです。

当たり前のことですが、経験に基づいて身につけたものは、忘れません。体験しないと分からない。それができるのが、保育園の時代なんですよね。

— それが「見守る」ということなのでしょうか。

渡邉園長:見守るというのは、なかなか説明の難しい言葉なのですが、最近しっくりくる言い方があって。「放っても置かないし、強制もしない」。放っておくわけではないので、しっかり観察して、何かあれば手を貸します。でも、無理強いもしない。給食でも、苦手なものを「食べなくていいよ」で終わらせるのではなく、いつか食べてほしいという願いがあるから、しばらくして「ちょっとトマト食べてみようか」と声をかける。

ずっと距離を置くのではなく、必要なときには距離を縮めてアドバイスをする。子どもが自分でやれているなら、離れて見ている。そこが、子どもが主役の保育の大事なところだと思います。

Adventure Course

— 遊び方も、子どもによってさまざまですね。

渡邉園長:みんなが均一だと、つまらないじゃないですか。学びの園庭でも、色水遊びにこだわる子もいれば、アスレチックばかりの子もいる。それでいいんです。選択肢の一つですから。色水遊びに夢中な子は、きっとそういうことが得意で、その道に進むのかもしれない。

大事なのは、いろいろな選択肢があって、子どもが自分のやりたいことを選べること。そのために、私たちがいろいろな環境を用意しておかなければならない。昔ながらの園庭だと、鉄棒やブランコ、鬼ごっこやサッカーくらいでした。園庭でも、そうやって違う方向の遊びができることが大事なんです。

— 保護者の反応は、いかがですか。

渡邉園長:ものすごく喜んでくれています。子どもにとって良い環境が大事なのはもちろんですが、それを保護者が見て実感してくれるのは、大きいですね。泥遊びにしても、「十分に楽しませてほしい」という保護者がとても多い。お便りにも書いてこられます。「楽しんで帰ってきました」とお伝えすると、親御さんもすごく喜ばれる。

ただ、今の保護者は、最初にきちんと説明しないと納得されません。「なぜこうするんですか」と聞かれる。だから、こういう理由でこうしているんです、と最初から説明する。言葉を交わした分だけ、信頼関係は築けると思っています。

— 最後に、この園庭にはまだ「続き」があるそうですね。

渡邉園長:あります。園庭には続きがあるんですよ。完成ではないんです。まだこれを作りたい、というものがある。変化し続けていく。樹種を増やしたり、ビオトープを造ったり。園庭が変わっていくと、子どもたちの選択肢も増えますから。こういう出会いも、結局は求めていないとやってこないんですよね。

課題がないと、いいものが目の前にあっても気づけない。常に意識しているから、通り過ぎるものにアンテナが反応する。環境も、人の言葉も、すべてタイミングなんだと思います。

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