J-ARCHITECT
JAKUETS Architectural Design Magazine
vol.34

建替えを転機にこども園へと再編 街の景観となる園舎

学校法人 愛仕学園 幼保連携型認定こども園 与野あいし幼稚園

区画整理という避けられない条件のもと、与野あいし幼稚園は園舎建替えと認定こども園への移行を同時に進めました。駅前という商業密集地で二ヵ年・二期工事という難度の高い計画を成立させながら、90年受け継いできた理念を空間としてどう継承したのか、その経緯と設計手法をご紹介します。

制約条件を読み解き、組み上げた複雑なプロジェクト

Entrance
ナチュラルなカラーと多様な素材を採用したエントランスまわり。階段踊り場のガラス面は、カラフルなシート装飾が賑やかに街を彩る。

1931年(昭和6年)の創設以来、与野の街とともに歩んできた与野あいし幼稚園は、約90年にわたり移転や増改築を重ねながら運営されてきました。しかし、約50年前に敷地が区画整理決定区域に指定されたことで、園の将来は長く不確定な状況に置かれてきました。

区画整理事業の開始時期が見通せないまま年月が経ち、園舎の老朽化が進んでも、自由な建替えができない状態が続いていたのです。そうしてやっと、2017年(平成29年)、区画整理事業がいよいよ本格化し、敷地が南と西に数メートルずつ移動することが判明。これにより、長年の課題であった園舎建替えが、現実的な計画として動き出すことになりました。

園舎の建替えは、幼稚園から認定こども園へ移行する大きな転機とも重なりました。この間、与野の街は、都心へ通勤する人々のベッドタウンとして急速に発展し、子育て世代が流入。時代の要請として0〜2歳児の受け入れニーズが高まる一方、「園バスなし」「給食なし」に象徴される、これまで大切にしてきた幼稚園としての理念や教育観をどのように継承していくのか。園として大きな決断が求められ、最終的にたどり着いたのは、「形を変えながらも、本質を受け継ぐ」ことでした。

設計においては、認定こども園への移行と園舎建替えを同時に進めることで、時代に応じた機能を備えつつ、園がこれまで培ってきた教育理念や価値観を空間に落とし込むことが求められました。そして大きな課題となったのが工程計画です。区画整理による道路拡張等の敷地の変更があり、仮設園舎を建てられなかったため、既存園舎を使いながらの二期工事を余儀なくされました。

そこで、職員室や保育室の機能が途切れないよう解体と新築の順序を慎重に検討した結果、補助金を活用した二ヵ年計画事業となりました。制度面・運営面・建築計画を同時に成立させる、極めて難度の高いプロジェクトでしたが、こうした制約を乗り越え、新園舎は完成を迎えました。

敷地は駅から近い利便性の高い立地にありながら、一歩入ると細い路地や低層住宅が連なる、落ち着いた街並みが広がっています。設計では、この周辺環境をていねいに読み取り、大きな建物を一体で建てるのではなく、細かく分節して建物のボリューム感や圧迫感を抑えた外観としました。

外壁にはタイルや押出成形板を組み合わせ、モスグリーンやブラウンなど、自然を感じさせる色調を採用。軒天にはスギ材を用い、都市にありながらも、やわらかな表情をつくり出しています。

また、園バスを運行しない園の方針を踏まえ、保護者が駅へ向かう動線を意識したエントランス配置とするとともに、自転車の置き場を確保するため、建物を敷地境界からセットバックし、せり出した2階を屋根として活用しています。低年齢児の保育室へは、園庭から直接アプローチするため、園庭にベビーカーを入れられる経路も確保しました。

On the Spot
駅から徒歩数分という利便性の高い立地にあり、周辺には高層マンションが増えている。一方、旧街区に入ると、低層住宅が立ち並ぶ昔ながらの住宅地が広がる。
Under the eaves
1階部分をセットバックさせて軒下空間を確保。街路のような柔らかな表情をつくる。

ふれあいを大切にする園の理念を空間で継承

既存園舎は増改築により3棟に分かれていましたが、新園舎は南に開かれた新たな庭をL字で囲む、二翼の建物としました。その結節点に、外からのエントランスと、園庭に抜けるエントランスを直線上に配置しています。2階には、ステージを備えた広い遊戯室を完備。屋上は園庭を補完する屋外遊戯場や、プールが設置可能な環境を用意するなど機能の充実をはかりました。

Entrance
2階にある遊戯室。天井が高く、ボール遊びにも対応可能だ。天候の悪い日や暑すぎる日でも思い切り体を動かすことができる。
Entrance
この日は特別にランチの会場としても使用。二面に設けたキャットウォークは、セレモニー時には保護者の撮影スペースとなる。
Entrance
建替えによってひとつに集約されたエントランス。吹抜けとFIXガラス開口部の組み合わせにより、明るさと開放感をもたらした。

内部空間は、見通しや回遊性を大切にしながら、子どもの好奇心を引き出す構成を考えました。旧市街に多く残る路地のイメージを重ね、廊下の一部ではあえて緩やかにカーブを描き、安全性を確保しつつ先が見通せないつくりとしています。2階には、図書コーナーを含んだぐるりと回遊できる動線が設けられ、日々の移動そのものがあそびや発見につながる空間となっています。

Child-Rearing Support Office
子育て支援室。吹抜け上部の左の窓は2階の図書コーナーに面していて、上下階でコミュニケーションがはかれる。
3-Year-Olds' Classroom
1階、3歳児室。園庭側窓はウッドデッキへとつながる。3・4・5歳児室はいずれも2室ずつ設けられている。

階段踊り場には、外部とつながる大きなガラス面を設け、カラフルなカッティングシートで園のシンボルを描きました。園児と保護者の送り迎えのシーンを彩りながら、適切に外部からの視線を遮ることを両立させつつ、街に対するアクセントにもなっています。そのグラフィックデザインはヒヨコスタジオによるもので、園のロゴマークやガラス窓の防護サイン、園庭遊具などにもオリジナルのイラストを制作していただきました。

Fire Door
1階、階段の防火戸。カッティングシートで切り絵をモチーフにしたカラフルなグラフィックを施した。
Stair landing
階段踊り場のガラス面に施した装飾は、ステンドグラスのような効果を生み出し、空間を特別な場所へと演出する。

壁やコーナーにはアールを多用し、空間全体に柔らかさを持たせています。園庭に面する部分には、旧園舎にならってデッキを設け、室内と屋外を行き来しやすい構成としました。特に低年齢児の保育室前では、デッキに奥行きを持たせ、外遊びと室内活動が緩やかにつながる環境が整えられています。

食育への配慮として、給食室はガラス張りとし、調理の様子や立ちのぼる湯気、香りが子どもたちに伝わるよう計画されました。図書コーナーも独立した部屋とせず、動線の中に組み込むことで、日常の延長として本に親しめる工夫が施されています。

Book Corner
図書コーナーからホールに向かって。こぢんまりとしたスペースを巧みに活用し、動線上に図書コーナーを配置した。扉や間仕切りも設けていないので、気軽に立ち寄って本に触れられる。
School Cafeteria
調理する人と子どもたちの心の交流が生まれるよう、園長の要望により給食室をガラス張りとした。楽しいグラフィックで彩りを加味。

園庭の植栽計画は、この土地に適した樹種を新たに選ぶという方針のもと、周辺環境の植生を調査しながら計画を進めました。旧園庭には様々な樹種の大木がありましたが、思い出があるので残したいなどと固執せずに全体の配置計画を優先することとし、その上で、落葉樹・常緑樹など多様な樹木をユニット化したものを複数配置し、将来的に「森のような園庭」へと育っていくという構想を描いています。天然石を用いた本格的な造園は、都市的な周辺環境の硬さを和らげると同時に、子どもたちが自然の多様性や危険性を学ぶ場としても機能しています。

工事工程

Construction Projects
Planting
自然の景観を模し、天然石を用いた庭園調の植栽。鑑賞するための庭であることを伝え、自然への敬意を育む。
Playground Equipment
子どもの冒険心をくすぐる遊具を象徴的に配置。時間帯によって、低年齢の子どもたちも広い園庭をのびのびと使っている。
Rooftop Garden
屋上園庭。安全にあそべるようゴムチップ舗装に。遊具に加え、夏期にはプールも設置可能なスペースとなっている。
Exterior
夕方にはあたたかみのある明かりが保護者を迎え、行燈のように街を照らす。

平面図(3階省略)1/400

Floor Plan

DATA 学校法人 愛仕学園「与野あいし幼稚園」

所在地埼玉県さいたま市中央区下落合
主要用途幼保連携型認定こども園
定員210名
竣工2021年7月
……
構造鉄骨造3階建て
敷地面積2148.45㎡
建築面積988.06㎡
延床面積1982.63㎡

IMPRESSION ─ 建設を終えて

学校法人 愛仕学園 幼保連携型認定こども園
与野あいし幼稚園

園長 小山貴裕 氏

Principal

やむにやまれぬ園舎再編は理念を変えずに守るための「脱皮」

この園は、1931年にアメリカから来日した宣教師、エリザベス・F・アプタン先生によって創設されました。祖母がその先生と一緒に園を支え、父が引き継ぎ、そして今は私が園長を務めています。90年以上続いてきた歴史の、ほんの一番先端に私が立っている、そんな感覚ですね。

実はこの敷地、50年ほど前から区画整理の決定区域に入っていて、いずれ建て替えなければならないことはわかっていました。ただ、決定区域内ということで自由に動けず、園舎は古くなっていくのに手を打てない。そのもどかしさはずっとありました。だから、区画整理がいよいよ本格的に動き出したと聞いたとき、「やっとここまで来た」という思いが強かったです。

同時に悩んだのが、認定こども園へ移行するかどうかでした。当時、この地域ではまだ事例も少なく、幼稚園として長年大切にしてきたものを、私の代で変えてしまっていいのか、ととても迷いました。園バスがないことも、給食がないことも、理由があって続けてきたことです。親子で手をつないで歩いて登園する道すがらの時間や、家族がつくってくれたお弁当を「おいしいね」と味わう経験は、体だけでなく心の栄養になるという信念をもっていました。

私は革命児ではないので、「ドラスティックに変えよう」と思えるタイプではありません。でも、前理事長である父がとても柔軟で、「時代に合わせて形を変えながら、その時々の地域や子どもたちに必要な園であるべきだ」と言ってくれました。その言葉に背中を押され、こども園への移行と建替えを決断しました。

設計でお願いしたことの一つが、厨房をガラス張りにすることでした。給食になっても、誰がつくっているのかわからない食事にはしたくなかったからです。調理員さんが一生懸命つくってくれている姿が見えて、「いい匂いがするね」「今つくってるよ」と声をかけ合える。そういう心のやり取りがあれば、お弁当から給食に変わっても、背景にある愛情はしっかり受け継がれると思ったんです。

外部からの視線についても、強く意識しました。丸見えにはしたくない。でも、完全に閉じてしまって要塞のようになるのも違う。気配は伝えつつ、視線はコントロールする。そのバランスを大切にしていただきました。

また、先生たちのための環境も大切にしたかったですね。大人用のトイレを増やすこと、きちんと休めるような休憩室を設けること、収納をしっかり確保すること。保育者が無理をせず働けることは、結果的に子どもたちの安心につながりますから。

園庭については、思い出のある大木を無理に残すことにはこだわりませんでした。この土地に合った木を、これから育てていく。そのほうが、この園らしいと思ったんです。まだ植えて間もない木々ですが、やがて森のような園庭になり、気持ちのいい緑陰を提供してくれるはずです。

新しい建物と一緒に、園も生まれ変わりました。でも、子どもを真ん中に考える姿勢は、創設当初から何一つ変わっていません。形は変わっても、大切にしてきた思いは、これからもきちんと受け継いでいきたいと思っています。

JAKUETS

設計士 宇都宮設計事務所 建築設計課 荻野浩和

Designer

2017年の初訪園では、駅前商店街からの前面道路もまだ狭く、高層マンションに囲まれた中、大きな木々が印象的な幼稚園でした。区画整理など、いろいろ制約がある中、打ち合わせを重ね設計を進めました。最後の区画整理後、植栽工事が終わり、その木々の成長を見たりするのをはじめ、訪園がとても楽しみな認定こども園です。

ディレクター さいたま店 浦谷勝也

Director

大きな決断に際し、パートナーとして伴走できたこと大変うれしく思います。新園舎建設という大きな期待と、こども園として新たなスタートをきる不安もある中、常にポジティブ思考の小山理事長の姿があったと記憶しています。前理事長の長年の思いも入った園舎。常にアップデートしながらしっかりサポートしてまいります。

デザイナー ヒヨコスタジオ 山崎正樹 氏

Designer

五感を使い夢中であそぶ中で育つ子どもたちの個性の豊かさを、多彩な切り絵モチーフで表現。一つ一つ異なる色と形が集まり、ロゴやイラスト、文字となって、園の温かさと創造力を象徴するイメージを狙いました。

2026年3月発行
発行:株式会社ジャクエツ
A2036-0700-13514