JAKUETS COMMUNICATION MAGAZINE
いぬはりこNEWS vol.31

子どもが「ここにいたい」そう思える園づくり

少子化が進む今、幼稚園には「選ばれる園」としての魅力が求められています。品川翔英幼稚園は2023年、童画家・星野はるか氏とともに「遊びと学びの森」をテーマに園全体をリノベーション。図書館を核とした教育理念を空間に落とし込み、子どもたちの主体性と創造性を引き出す環境を実現しています。挑戦の背景と効果を、小野時英理事長に伺いました。

Entrance
入口はまるで絵本の世界に入っていくようにデザインされている。
品川翔英幼稚園は昭和23年、学校法人小野学園により設立された。小・中・高校まで併設されていて、校舎、グラウンド、室内温水プール、山中湖セミナーハウス、自然観察園など教育的環境も大規模に整っている。

執筆:猪狩はな 写真:樋口 涼

Chairman
インタビュー
品川翔英幼稚園 理事長・園長
小野時英(おの ときひで)

固定観念を打ち破る──「選ばれる園」への挑戦

大規模リノベーションのきっかけは、「このままでは、園がなくなるかもしれない」という危機感です。10年前、品川翔英幼稚園には400名近い園児が在籍していました。しかし、共働き世帯が増えて保育園利用者が増加したことと、少子化の波もあり、園児数はどんどん減っていきました。

一度減ってしまった園児数を回復させるのは難しいことです。イメージを変えるために、コンセプトを作り、施設をまるっきり変えるしかありませんでした。そこで2023年、トイレ、廊下、教室、図書室まで、全面的に改修することにしたのです。

私たちが目指したのは「子どもが本を読む場所」を中心とした空間。与えられるのではなく、自分で好きな本を読み、学べる。それが本の役割であり、積極性を育てると考えたからです。

Hallway
広い廊下は、子どもたちが体を動かし、あそび、コミュニケーションをとる場所になっている。

「子どもが本を読む場所」から広がった、物語の世界

この想いを伝えたところ、ジャクエツが提案してくれたのが「遊びと学びの森」というコンセプトでした。童画家・星野はるかさんとともに、園全体を一つの物語空間へと変えてくれたのです。廊下は森の道に、柱や壁は木に。収納スペースには「こもり空間」を作り、壁の下部には扉をつけました。

普通は、壁の下には入口を作らないかもしれません。でもここが「童話の世界」なら……ネズミが住むような小さな扉があってもいいですよね。こんなふうに、子どもがイメージの世界で遊べる場にできたと思います。

Children's Art
星野はるかさんが描いた「コンセプト童画」。環境空間の想いの共有を目指し創作した作品。
work
園の先生方が最後に大地に咲く花を描いて、この作品は完成した。
Works
子どもたちがふれて楽しめるように、線にも立体感が出るようにしている。
Children's book illustrator
童画家
星野はるか(ほしのはるか)

「絵本との出会いを通して子どもたちの学びを深めたい」——そんな想いを受け、「遊びと学びの森」をテーマに、園全体で世界観が統一されるようデザインしました。

目指したのは、子どもたちの遊びが自然と広がるなかで、日々の活動が展開していく生活動線です。多様な子が集まる場だからこそ、わかりやすさ・かわいらしさ・過ごしやすさを大切にしました。遊びと学びが重なり合う園の生活に寄り添える「もう一つの森」として、子どもたちが日々の発見を楽しんでもらえたらうれしいです。

KUMA’S FACTORY 所属。国内外の教科書・教材イラストや造形書籍を手がけ、全国の園で原画提供・研修・ワークショップ・共創アートを展開。ソレイユの丘や大学での大型プロジェクト、宝くじビジュアルなど幅広く活躍。

子どもの創造性を育む 遊びと学びの森

Picture Book Room
絵本室は、まるで絵本の世界に入ったように、備品のすべてがデザインされている。絵本は野村優子先生が、子どもの発達や季節に合わせて厳選している。

子どもが楽しむと先生も変わる——リノベーションの効果

リノベーション後、園には大きな変化がありました。子どもが楽しんでいる姿を見た先生方が「もっとわくわくするあそびを取り入れよう」と、今まで以上に積極的に取り組んでくれるようになったのです。子どもが楽しむと先生も意欲的になり、さらに子どもの姿が豊かになります。保育の内容、先生方の関わり、子どもの姿、相乗効果で全てがいい方向に進んでいると実感しています。

また、現場の先生からは「子どもたち一人ひとりを尊重する環境が実現された」という声が上がっています。例えば、トイレの配置です。従来は男子用便器が個室の反対側にある配置で、男の子の様子が常に見える環境でした。この点を相談したところ、男子用便器と個室とを分離したかたちでのリノベーションを実現してくれました。細部への配慮が行き届いた空間にできたと思います。

Picture Book Room
絵本を開いたような絵本室の入口。絵本の世界に入っていくようなイメージとなっている。
Picture Book Room
絵本室にある機械。ダイヤルをまわすと、星野さんの描いた絵が現れる。絵も自由に入れ替えることができる。絵本室の什器はすべて星野さんがデザインした。

子どもの「やりたい」を引き出すための環境づくり

子どもは直感的に理解するので、入ったときに「面白い」「楽しい」と感じることが大切です。だからこそ、創造性を育てるにはまず「環境」だと考えています。

本園ももともとは、教室と廊下があるだけの一般的な幼稚園でした。活動も、先生から子どもになにかを与えるスタイルが主でしたが、今は違います。マグネット付きの壁、数の学びが散りばめられた階段、遊び場にもなる廊下。子どもが主体的に「やりたい」と思った活動を取り入れるようになりました。

園の説明会で子どもを預かったときにも、みんな「帰りたくない」と言ってくれるんです。学園祭のときには保護者や卒園児が「うわー!」と言って喜んでくれることもあり、そういうリアクションを見るたびにやってよかったなと感じますね。

今の時代、優れた道具や教材がたくさん研究されています。いいものは取り入れつつ、子どもたちが「ここにいたい」と思える場所を作る ——それが、これからの幼稚園に求められることではないでしょうか。

Restroom
改修後のトイレ。入口にも星野さんの絵。
Restroom
プライバシーを確保しつつ、広々として明るいトイレ。排便しやすい姿勢形成の便器を採用。
Restroom
ブースは温かく明るい空間にしたいとのリクエストを受けてデジタルペイントで木彫風に描いたオリジナルシートを貼っている。個室全て動物の種類が異なる。
Hallway
廊下には子どもたちが遊んだり、リラックスしたりするスペースが用意されている。
Characters
左から東京中央店 鈴木店長、小野理事長、東京中央店 川崎担当。

2026年1月発行
発行:株式会社ジャクエツ
J2016-08 00-22165