J-ARCHITECT
JAKUETS Architectural Design Magazine
Vol.26

自然あふれる杜と地域に開けた園舎

学校法人 けやきの杜 小平神明こども園

Kindergarten building
隣接する神社の参道と並行して屋外廊下(テラス)が長く延びる。
参道からも子ども達があそぶ様子がよく見える。

小平神明こども園は小平神明宮の境内に位置する、文字通り鎮守の杜に守られたこども園です。こども園への移行に伴い、建替えとなりました。保育を継続しながらの施工は困難もありましたが、こども園としての必要十分条件を上回る気持ちのいい園舎ができあがりました。

鎮守の杜に囲まれた園舎。こども園への移行で建替えに

幼稚園型認定こども園の小平神明こども園は、東京都小平市の小平神明宮の境内にあります。鎮守の杜に囲まれた自然豊かな環境の下、神社の参道から元気にあそぶ子ども達の姿が望めます。

2024年で創立60年となるこの園は、元は平屋の木造園舎で、増改築を重ねて迷路のようだったそうです。冒険心をくすぐる建物の配置は子どものみならず、保護者にも愛され、耐震補強などをしながら使い続けてきたのですが、認定こども園への移行を検討する際に、法規に適合した建替えの必要が生じました。

園からの要望の一つは、緑豊かな環境になじむ佇まいというものでした。そこで、開口部を大きく取って周囲の風景を取り入れると共に、地域からは子ども達の様子がよくわかるようにしました。また、愛着のあった木造園舎の面影をできるだけ残したいということで、室内は無垢の木の床や腰壁としました。

さらに、子ども達の居場所を増やしたいという強い要望もありました。旧園舎から引き継いだのは、伸び伸びと走り回れる広い園庭と、里山の趣を残す裏山です。裏山では、トンネルのある築山からソリで滑り下りたり、秋には落ち葉のかけ合いをしたり、自然の中で思い切りあそべます。

この園舎の象徴ともいえるのが、神社の参道と並行して延びる屋外廊下です。園に集中エントランスはなく、登園してきた子ども達はここから直接保育室に入ります。長さ80メートル以上、幅2.4メートルの半屋外空間は、通行のためだけでなく、子ども達の居場所であることも意識しています。以前の園舎でも屋外廊下があそび場として活用されていたので、それを踏襲しました。

各クラスで飼っているうさぎのゲージを出して一緒にあそぶ子どもがいれば、ひとりでいたり、友達と連れだってぶらぶら歩く子どももいます。みんなが一斉に同じことをしなくてもいいという保育方針で、集団からはみ出しても居場所があることは心の受け皿になります。

approach
小平神明宮に続く長い参道。子ども達のあそびの場は園舎だけではない。地域の人々が子ども達を見守っている。
back mountain
敷地の北側には、里山の趣を色濃く残した「裏山」というあそび場がある。園舎の建替えで広くなった。
playground
敷地の西側に位置する園庭。建替えの際に残したしだれ桜がシンボルツリーになっている。
Outdoor corridor
園庭に直接出られる屋外廊下が園庭と保育室をつなぐ。ここは通路であり、子ども達が自由にあそべる場所でもある。

落ち着ける畳スペースのある保育室。回遊性のある外廊下や屋上庭園

保育室の配置は、1階が1、2、3歳児、2階が4、5歳児です。認定こども園への移行によって新設された乳児のクラスは、にぎやかな園庭から離れた南の端に位置します。小さいながら専用の園庭もあります。道路に面しているので、乳児用の出入り口を設けることができました。その北側に3歳の2号児の保育室があります。

この園では、3歳児のみ1号児と2号児を分けて保育しています。3歳児はまだ昼寝の時間が大事。しかし、1号児に合せた時間帯で保育すると、2号児の昼寝の時間が遅くなって夜間の睡眠に影響が出ます。それで保育室を分けました。

そして、園庭に面して1号児の保育室があります。3歳児の保育室で特徴的なのは、室内に小上がりの畳のスペースがあることです。小平神明こども園では、多様な子どもを受け入れており、気持ちが不安定になった子どもが落ち着ける場所にもなるということで、小上がりを用意しました。

そして、建替えで2階建てになったことで、2階には屋上園庭が可能になりました。迷路のようだった旧園舎の冒険感覚を取り入れたいという要望から、保育室を囲む回遊性のある外廊下と屋上園庭(こもれび広場)を設けました。

保育室を通り抜けて違う場所に出たり、ぐるぐる回ったり。奥行きのある空間は、子どものあそび心を刺激します。こもれび広場は、夏はプールを置いたり、水彩絵の具を使う工作をしたり、クラス単位のこぢんまりとした多目的な活動に使われています。

旧園舎では、遊戯室が園庭に面していました。大開口部を開けると、園庭から見てステージになるような一体感があり、使い勝手が良かったそうです。その記憶を継承するため、建替えでは園庭に面してフレキシブルに使える部屋を設置しました。普段は預かり保育室として使用していますが、運動会など園庭で行事がある場合は大きく開き、舞台的なスペースに使われています。

また、室内には本格的なキッチンを設けました。保護者や地域の人が料理を一緒につくるなど、コミュニケーションを取れる場にもなります。子育て支援の活動もここで行なわれています。

Roof Garden
木漏れ日がふりそそぐ屋上園庭。絵具あそびや工作、プールあそびなど、クラス単位で活動する時に使われることが多い。
From the nursery room to the playground
2階の保育室から園庭に向かって。屋外廊下越しに、しだれ桜や参道の緑が見える。
stage
西と東、両側に設けた階段。子ども達にとっては、階段や入り組んだ踊り場もあそび場となる。広々とした多目的な居場所だ。
Outside the house, under the eaves
4・5歳児が過ごす2階の屋外廊下。動線であり、あそび場でもある。落下事故を防ぐため、極力ものを置かないようにしている。
Nursery
敷地の南側に位置する1歳児の保育室。窓の向こうに、1・2歳の乳児専用の園庭がある。
Infant Playground
乳児園庭であそぶ子ども達。激しく動く年長の子ども達と園庭を分け、安心してあそべる場所を確保した。
Nursery
1階、3歳の1号児の保育室。畳敷きの小上がりがあるのは年少の保育室だけ。落ち着けるスペースになっている。
Outside the house, under the eaves
2階は保育室を囲むように屋外廊下を設けた。保育室の2方向に開口部を設け、回遊できるようにしている。
Nursery
室内の家具や什器は固定されていない。各保育室内のレイアウトは担任の保育教諭にまかせている。
Outside the house, under the eaves
2階東側の屋外廊下。回遊式の屋外廊下にしたことで、迷路のようだった建替え前の園舎の記憶を受け継ぐ。

保育をしながら、パズルのような建替え工事を完遂

建替えは仮園舎を設けず、この場所で保育をしながら行ないました。工事中といえども必要な数の保育室は確保しなければなりません。遊戯室も職員室も、常に必要な空間です。しかも、園庭は以前と同じく参道側に設けるという条件もありました。敷地の中で新旧の建物をパズルのように使い分けながら、保育に支障が無いように工事が行なわれました。

工期は2期に分けています。1期工事では、南側の園庭だった場所に現在は乳児棟となっている保育室をつくり、メインの園庭の南側にあった園舎を取り壊して遊戯室、職員室、給食室などが入る棟を建てました。

2期工事では、園庭の北側と西側にあった園舎や体育館を取り壊し、保育室が入る棟を建てました。最後に不要になった建物を解体し、完成となりました。工期は1年半です。その間、保護者も温かい目で受け止めていたそうです。

設計の前段階として、ジャクエツは保育調査を行ないました。園の保育方針を確認し、旧園舎から踏襲すべきこと、新しく提案すべきことを整理しました。具体的には、子ども達や職員、保護者の動線の観察、すべての持ち物調査などです。物の数だけでなく、サイズも一つひとつ測っています。

そうした調査の結果、集中エントランスではなく、以前のように園庭から各保育室に出入りすることになりました。また、保育室内のロッカーやピアノなどの配置は固定していません。この園の保育の特徴として、保育室内のレイアウトは担任の先生に任せています。

例えば、外が見えないように出入り口前にロッカーを置く先生もいれば、壁につけて並べている先生もいます。そうした慣習に合せて、フレキシブルに使える保育室としています。

完成後、新しい建物配置により、園庭の面積の半分ぐらいが北側にずれました。それによって、園庭の北の端に生えていたしだれ桜が真ん中に来ることになりました。この木の回りを、運動会のリレーの練習中の子ども達が必死に駆け抜けます。園の意向で残した木が、シンボルツリーとして見守っています。

Playground
預かり保育室と屋外廊下の間に設けた砂場は人気のあそび場。友達と協力して大規模な「土木工事」をする子どもも。
Game Room
参道側の棟にある遊戯室。天井高を確保しつつ、参道に圧迫感を与えないよう、建物の高さを抑えている。
Childcare Room
園庭に面した預かり保育室。運動会など園庭を使う行事の際には、開け放して一体に使える。
Hallway
預かり保育室と遊戯室間の廊下。透明な屋根材で日が降り注ぐ。カリキュラムに縛られない保育を行う小平神明こども園では、自由に過ごす子ども達を受け入れる空間を心掛けた。
in the natural environment
敷地の西側(上)に小平神明宮の鎮守の杜が広がり、多様な生物に触れる豊かな自然環境の中にある小平神明こども園。

DATA 学校法人 けやきの杜「小平神明こども園」

所在地東京都小平市小川町1-2572
主要用途幼稚園型認定こども園
定員284名
竣工2024年1月
……
構造鉄骨造2階建て
敷地面積4326.37㎡
建築面積1554.47㎡
延床面積2163.51㎡

IMPRESSION ─建設を終えて

学校法人 けやきの杜 小平神明こども園

teacher
理事長 宮﨑和美氏(中)
園長  西田理子氏(左)
副園長 田中 岳氏(右)

こども園への移行のために建替えを
子ども達が子ども時代をいきいきと
誇らしげに生きていけるように

宮﨑理事長

認定こども園への移行を行政に相談したところ、旧園舎は使えず、規格に適合した保育室を揃えなければならないということでした。大規模な工事になると覚悟していくつかの設計事務所に打診しました。気がつけば、当園で長く使っている教材や遊具はどれもジャクエツブランドです。

また、ジャクエツさんは自社で幼稚園を運営されていて、ノウハウを蓄積されています。こうしたことから、時代の変化に耐えられる園舎をつくっていただけると期待して設計をお願いしました。

認定こども園への移行は、順風満帆ではありませんでした。計画自体が頓挫しかけたこともあります。ジャクエツさんからは制度のこと、補助金の情報など、設計以外でもアドバイスをいただけて助かりました。

設計期間中はコロナ禍でした。にもかかわらず、毎週のように設計者と施工会社、関連の業者さんも入って打合会をしていました。何か問題があればその都度お願いをして、次に変えていただきました。こちらからの希望はほとんど叶えられたと思っています。

私は子ども達が子ども時代をいきいきと誇らしげに生きている姿こそが少子化を止める力だと思っています。ですから、できるだけそれぞれのペースに合わせた過ごし方ができるように心掛けて保育をしています。こども園は子どもが活躍できる場所です。新しい園庭を走る子ども達を見ていると、「どうだ、オレは最高だろう」っていう顔をしていますね。

田中副園長

1年半の限られた工期の中で、子ども達が過ごす場所を増やすということが計画の課題でした。完成後、昼食後などに屋外廊下でゴロゴロしている子どもを見ていると、「よしっ」と思いますね。子どもは常に活発ではないので、ゆっくりしたい時にゆっくりできる場所があってよかったと思っています。

一方、使い始めてからわかったこともあります。たとえば、屋外廊下に雨樋を付けなかったので、荒天時の地面からの跳ね返りは予想以上でした。また、2階のテラスに物を置くと子どもにとって危険が生じます。こうしたことを職員同士で日々話し合い、対策を考えています。皆で対話する余地があることも意味があると思っています。

認定こども園への移行と建替えは短期間に決まりました。にもかかわらず、在園児の保護者に説明会を開いたところ、皆さん好意的に受け止めてくれて感謝しています。旧園舎に限界を感じていたことも要因の一つかと思います。また、園舎以上に当園の保育方針に共感くださっているからかもしれません。建替え期間中も園児数の大幅な減少はありませんでした。

こども園化すると、子育て支援の機能を充実させる必要があります。預かり保育室を開放し、絵具や粘土あそびなどをしてもらっています。産前産後の方を対象にヨガ講座を開くこともあります。職員の仕事量は増えましたが、補助も多くいただけるようになったので、人員を増やせました。地域に開いたことで、職員も地域に貢献している実感も持てているようです。

JAKUETS

設計士 東京本社 建築設計課 秋山浩二

Designer

狭隘な敷地の事業も多く監理させていただきましたが、新旧園舎の間をぬって工事を進める本事業は、これまでと違った難易度のプロジェクトでした。全工程が完了したお引渡しの日、子どもたちからいただいた笑顔とサプライズは宝物です。ありがとうございました。

設計士 東京本社 建築設計課 石伊真依

Designer

約3年間の設計監理で様々な困難に直面することもありましたが、多くの方にご協力いただき無事に竣工を迎えました。保育方針や自然豊かな環境が小平神明こども園の魅力だと感じ、その良さが引き立つような園舎を目指しました。これからも地域に親しまれる居場所であり続けてほしいです。

ディレクター 八王子店 梅田仁

director

解体工事合わせて、五期工事が無事にできたことが何より嬉しいです。工事中は職員の方々、園児、保護者、地域の皆様にご迷惑をお掛け致しておりましたが、皆様にご協力いただけた事が今回竣工できた要因に感じます。神社に寄り添った園舎で、たくさんの経験をして育って欲しいと思います。

2024年 12月発行
発行:株式会社ジャクエツ
A2124-0700-13043