J-ARCHITECT
JAKUETS Architectural Design Magazine
Vol.24
ダイナミックなあそびがつなぐ、記憶に残る園舎
社会福祉法人 この花保育園 この花こども園

大阪府岸和田市で50年近く保育に取り組んできたこの花こども園。住宅密集地での難しい建て替えでしたが、2階からの滑り台やネット遊具など、オリジナリティにあふれたダイナミックなあそびに満ちた園舎が完成しました。
地域の財産となるオリジナリティのある園舎に
平成28年に幼保連携型認定こども園に移行したこの花こども園は、この地で50年近く保育に取り組んできました。建物の老朽化と手狭になっていたことで、建て替えが切望されましたが、大阪府の都市計画道路上に敷地がかかっていたことからなかなか許可が得られず、移転も検討されましたが代替地も見つからず、紆余曲折を経て、旧園舎で保育を続けながらの建て替えプロジェクトとなりました。ちょうどコロナ禍での計画となりましたが、施工期間1年を経て、令和5年の夏にこの新園舎を完成させることができました。
新園舎は、必然的に旧園舎と反対の配置で、必要な床面積や機能から旧園舎の約2倍の建物となり、その分、園庭が小さくなりました。園からの主な要望は、「地域の財産となるオリジナリティある園舎」「子ども達にいっぱいあそんだ記憶が残るような、園舎全体を巻き込んであそべる空間」というもので、これまで不便を感じていた収納や使い勝手などの改善も求められました。
住宅に囲まれた都市部における園の建て替えとして、限られた面積内で必要な機能をしっかり実現しながら、どれだけの “ あそび ” を展開できるか、それが設計に投げかけられた大きな課題でした。
それらの要望を受けての提案は、シンプルな2つの建物を L 字に配置し、その中心部に内外と上下階をつなぐダイナミックなあそびをつくる、というもの。建物の1つは園庭に面した保育室棟で、1階に低年齢児、2階に3歳児以上の保育室。もう1つの建物には、1階にエントランスホール、事務室、職員休憩室、調理室など、2階には遊戯室と大きな倉庫を置きました。
園の要となるあそびは、意見を出し合ってこの園ならではの独自性あるものが考えられました。2階からの滑り台は園長からのリクエストで、避難用滑り台を兼ねたものに設計しています。
当初から要望にあった築山は、さらにあそびをつなげようと滑り台の着地点に。そしてただの築山ではなく、乳児も上がれる緩斜面と大きな子ども達でもちょっと苦労する急斜面の両方をつくり、トンネルや階段も設けてたくさんのあそびが体感できるものとしました。

築山は急斜面と緩斜面の両方をつくって、乳児もあそべるように設計している。

内廊下と外廊下で、
あそびをスムーズにつなぐ
もう1つ、1階と2階をつなぐあそびとして、2つの棟の間にあるライトコートにネット遊具をつくりました。この園では、乳児期から鉄棒にぶら下がったり、体幹を鍛え身体能力を高める運動に積極的に取り組んでいることから、設計側から全身を使ってあそぶネット遊具を提案。設計士がこのスペースに合わせて大枠のサイズを割り出し、それを受けて遊具デザイナーが細部までデザインしています。
低年齢児もあそべるようネットの編み目を細かくしたり、外側にくるんと張り出したエスカルゴネットなど身体のうまい使い方が必要とされる仕掛けも盛り込んでいます。
このネット遊具のあるライトコートから保育室棟1階の廊下を介して、2歳児、1歳児、0歳児の保育室がつながっていきます。この内廊下の外部には庇を深く張り出させてウッドデッキを設け、子ども達がここから直接園庭へ出られるようにしました。低年齢児の登降園はエントランスからとなりますが、外あそび用の靴箱を廊下につくり、すぐ園庭に出られてあそびが途切れない動線としました。
それに対して、2階に保育室を置いた3歳以上の子ども達の出入りはすべて外階段からとしました。そして2階は外廊下にしてウッドデッキと靴箱を設け、各保育室へはここから直接出入りするようにしました。外廊下は外階段と滑り台に直結しているので、靴を履き替えればすぐそのまま滑り台で下りていくことができ、下に着いたら外階段から上がってきてまた滑り台へと、無限にあそびがループできるつくりになっています。
また外廊下のウッドデッキはライトコートに続いているので、2階からネット遊具で下りてまた内階段で上がってきてと、こちらも無限にあそぶことができます。
この1階の内廊下と2階の外廊下が、園全体をあそびの場としてスムーズにつなげる役割を担っているというわけです。

右が 保育室棟、左が事務室や調理室、遊戯室な どがある棟。


ネットの上は心地が良いようで、季節によっては寝っ転がっている子もいるそう。


3面が開口部の明るい空間。左に見えるのがDENの小窓。

右隣は0歳保育室でその間には両側から使える調乳室がある。

0歳児と1歳児の保育室は、相互で関われるつくりとした。

出入りは廊下から。
冷暖房も効く、快適な人気の小部屋。

庇を深くとってウッドデッキを設け、直接、園庭に出られるようにした。
廊下にはパススルーロッカーと、外あそび用の靴箱を設けている。
長年の経験から細部や室内環境にもこだわりを
長年の保育経験を元に出された要望もありました。特に収納に関しては、こだわった点が多々あります。椅子や机など出しっぱなしにせず、すべて納めたいということで各保育室に大きい収納を設けました。
また、園児用のロッカーも、一般的な2人で1つのロッカーでは服や帽子などものの取り間違えが度々生じ、それによって先生方の時間もかなり割かれてしまうことから、1人1つのロッカーを特注で制作しました。この収納はとても功を奏し、取り間違いが激減したということです。
運動会などで使う備品やお遊戯会の衣装などを収納する大きな倉庫もこだわったところです。以前は園庭にプレハブを建てて収納していましたが、容量が足りなくなり出し入れも相当の労力だったそうで、それを改善すべく、遊戯室の隣に広い倉庫を設けました。広さはもちろん出し入れのしやすさや冷暖房の効いた場所での作業は、先生方の負担をだいぶ減らせたようです。
そして、先々もより良い保育を行っていけるようにゆとりある空間も求められました。アトリエはもともと収納として考えていましたが、多目的スペースとしてとっておくことに。現在は子育て支援などに頻繁に活用されているそうです。
遊戯室は専用で設け、より広く使えるよう、ステージは壁収納タイプを採用しました。日々のあそび場としてはもちろん、体操・ダンス・音楽教室を行う場としてフル稼動されています。屋上は、都市部では屋外空間として貴重なため、日除けシェードを設けて様々な使い方ができるスペースにしました。夏にはユニットプールを置いて、水あそびもできるようにしています。
また、この花こども園では室内環境にもこだわり、全空気式床ふく射冷暖房システムを採用しました。冬は床下に暖気を送ってふく射熱で温め、夏は冷気で涼しくするというシステムで、身体に優しい穏やかな温熱環境が得られます。
日々の円滑な保育と快適な環境の中で、記憶に残るほど、ダイナミックにいっぱいあそんで欲しい。その想いを叶えられる園舎が実現しました。

混雑しないように、幅を十分広くとった。

ネット遊具であそぶ子ども達が見える。

身体をたくさん使うあそびと共に、音楽活動など情操教育にも注力している。

ロッカーは、ものの取り間違いを防ぐために1人1つ。他の収納類もすべて特注した。

手前に外階段、中央に滑り台、奥には屋上までの外階段があり、緊急時にはそれらが避難路となる。

式典やイベント用のステージは壁面収納として、スペースを有効利用した。

1階正面がエントランスで、この棟に事務室、調理室、倉庫などのバックヤードが入る。

築山、滑り台、ネット遊具とあそびの場をつなげることで、園舎全体があそびの場となっている。
平面図 1/500(屋上階略)


DATA 社会福祉法人 この花保育園「この花こども園」
| 所在地 | 大阪府岸和田市春木旭町3-16 |
| 主要用途 | 幼保連携型認定こども園 |
| 定員 | 148名 |
| 竣工 | 2023年7月 |
| …… | |
| 構造 | 鉄骨造 2階建て |
| 敷地面積 | 1855.44㎡ |
| 建築面積 | 784.49㎡ |
| 延床面積 | 1364.01㎡ |
IMPRESSION ─建設を終えて
社会福祉法人 この花保育園 この花こども園
理事長 西田武史氏

「いっぱいあそんだ記憶を残せる園舎」
西田理事長
ジャクエツブランドに対する信頼は厚くて、設計に際してはジャクエツ以外は選択肢になかったです。福井本社や系列園の見学にも行きましたし、他園さんからの評判もうかがったりしましたが、なにより保育の現場に長年関わって熟知している園長の判断と想いが強かったですね。ジャクエツさんの実績はもちろんなのですが、最終的には担当の芳村さんの日頃の対応や人柄が決め手になりました。
また、建て替えに伴って必要となる様々な申請業務であるとか、医療機構とのやりとりなどに対しても手伝っていただけたことはとても助かりました。
設計に関しては、当園の場合、条件がかなり厳しかったので、やれることは限られていたかと思いますが、当初の提案はとてもシンプルで見た目の大きな特徴がなかったので、正直なところインパクトが薄かったです。でも、そこから定例会議で話し合いを重ねて、象徴的な滑り台やネット遊具へと発展していって、結果的には私達らしい園舎になりました。
この土地は、開園当時は今ほどの戸建て数ではなかったのですが、急行停車駅に近いこともあって現在は密集している住宅街になりました。
そういう周辺環境との共生も園にとっては大切なことで、だんじり祭りなどを通して地元との関係性はあるのですが、建て替え工事では騒音や振動などでご迷惑をおかけすることは必至でしたので、事前に説明やお願いもしました。「町内の皆さんに喜んでもらえるような、町の財産になる園舎をつくるから」と。
施工中はたいへんでしたが、近隣住民や保護者からのクレームなどはなくて、それもありがたかったですね。子ども達にとっても、工事が進む様子を間近で見られたことは良かったと思います。男の子は重機に、女の子は現場副監督に夢中になりました(笑)。設計監理、施工業者さんにも感謝しています。
園長 西田直子氏

「町の財産になる園舎」
私達の想いを実現することができました
西田園長
新園舎は、子ども達が大きくなって振り返った時に「いっぱいあそんだ」っていえるものにしたいと思いました。あそびが子ども達の財産になっていくと考えているからです。設計では、そのあそびを大切にかたちにしていただきました。
また、私達職員の働きやすさも考慮していただいて、助かったところが多々あります。ありがとうございました。
完成から1年経って、やっと馴染んできた気がします。思い描いた空間を実際にどう使っていくか、ルールを決めていくことも保育・教育の質を高めるには必要なんですね。例えば、ここは上靴であそぶか、靴下であそぶか、など。子ども達のあそび方はもちろん、空間の活用の仕方、掃除の方法まで試しながら、やっと定着してきたところです。
でも、子ども達の能力は未知数で、まだまだ思いがけないあそび方をしたりすることもあります。今後はこの園舎の可能性をさらに引き出し、園庭にももっとあそびを増やしていきたいと思っています。
JAKUETS
設計士 髙橋有美 大阪設計事務所 建築設計課

「ダイナミックなあそびを通じて発達を促す園舎」となるよう、子ども達がたくさん体を動かして主体的にあそべる空間づくりを考えて設計しました。建物はかわいらしいカラフルな色やデザインではなく、シンプルでシックモダンなものを提案させていただきました。動線や使い方についても十分に対話を重ねて、関わる皆様と一緒に考え、つくり上げた園舎になったと思います。
ディレクター 堺店 芳村直樹

「あそび」を通じて笑顔が交わる園舎づくりを、最初のご相談から竣工そして使用中の現在まで関わることができて感謝しております。思い出の詰まった旧園舎でのお別れ会もあり、先代から培われた想いのこもった園舎になりました。これからも地域の方から愛されるこども園であり続けてほしいです。
遊具デザイナー 福井本社 空間デザイン課 森 万由加

ラフスケッチの案出しからスタートし、遊具内部の動線や、あそび機能、イラストデザインまで、たくさんのご提案をさせていただきました。設計から施工まで、部署を越えて多くの方にご協力いただき、みんなの想いがこもったこだわりのオリジナル遊具が完成しました。
2024年 8月発行
発行:株式会社ジャクエツ
A2084-0700-14143



