J-ARCHITECT
JAKUETS Architectural Design Magazine
Vol.28

長い冬も明るく快適に過ごせる、
雄大な自然を取り込んだ園舎

学校法人 広島大谷学園 大谷むつみ認定こども園

Exterior
白い箱に壁面と開口部にメリハリをつけた外観。
2階、遊戯室の大きな窓が空を映し出し、額縁のような外壁が一幅の絵のようにまち並みに景色を添える。

北海道北広島市に位置する大谷むつみ認定こども園。移転建替えに伴い、設計の工夫とインテリアデザインによって、北海道の豊かな自然を取り込んだ快適な空間ができあがりました。積雪のある長い冬も暖かく過ごせる園舎です。

大きな空を映し出すファサードがまち並みを彩る

北海道北広島市の大曲に幼稚園として2011年(平成23年)に開園、保育園を経て、2018年(平成30年)に幼保連携型認定こども園に移行した大谷むつみ認定こども園。園舎の老朽化に加え、将来を見据えて旧園舎の向かい側に購入していた土地の活用など複合的な要因により、その土地に新園舎を移転し建替えることになりました。

敷地は高速道路沿いで、道路側には北海道ならではの木々が植生する林があります。周辺は住宅街ですが高い建物はなく、大きく広がる空が望めるゆとりのある場所です。その環境を活かすべく、豊かな自然を建物の内外に取り込む設計、デザインを熟考しました。

まず配置計画では、必要不可欠な駐車場を敷地の手前(送迎用)と奥(職員用)にとり、園舎を中央に置きました。奥の駐車場へのアプローチは林側にとることで高速道路との緩衝スペースともしています。

園舎は、園庭を囲むように2つの箱をL字に繋げた2階建てとしました。雪対策としては、屋上の樋にヒーターを入れて融雪し、北風で雪が落ちないよう南側だけ雪止めのフェンスを設置しました。そして、雪に閉ざされる冬でも明るく快適に過ごせるよう、開口部にメリハリをつけています。

園の顔ともなるファサードは、遊戯室の窓を全面開けて内部に明るさと開放感を与えると共に、外部に対しては刻々と変化する大空を映し出しながら、遊戯室であそぶ子ども達の様子を伝えます。さらに、テキスタイルデザイナー・氷室友里さんによるデザインのロールスクリーンによって、昼間も夜間もまた違う表情を楽しめるものとなっています。

West Facade
西側からの俯瞰。
左に高速道路が走るが林を緩衝空間として、騒音の気にならない配置に。
必須の駐車場は、手前に送り迎え用、奥に職員用を設けた。
Game Room
夜間はまちの灯りともなる。
遊戯室の窓には鳥が描かれたロールスクリーンが取り付けられ、昼も夜も美しい空を描き出す。

テキスタイルデザイナーとのコラボレーションによるインテリア

雪国には欠かせない風除室からエントランスに入ると、正面には園庭が見え、右に一時預かり室、左には階段を囲んでえほんコーナーがあります。階段手前には職員室、厨房があり、一時的な来園者はエントランス回りで用事を済ませることができるプランになっています。保育室は1、2階共にL字の長手に並べ、それぞれ異なる使い方となる廊下からのアプローチとしました。

1階の廊下には園庭側に土間を設けました。北海道では珍しい土間ですが、園庭への出入りスペースとして、子ども達が混雑せずに靴の脱ぎ履きができて、冬の身支度も暖かい室内で雪を室内に入れずにできることから提案しました。

えほんコーナーは、絵本を保育の中心に置いている大谷むつみ認定こども園を象徴する空間でもあります。誰もが立ち寄りやすいよう、どこに行くにも通り道となる階段回りに設けました。

前理事長から寄付された約700冊の絵本を収蔵し、子ども達が自ら興味をもって絵本を手に取るような空間を目指して、デザイン面では氷室さんに協力いただきました。デザインモチーフには北海道の自然を取り入れ、白樺をイメージした本棚や木の実に見立てた飾り棚のある壁面、魚や動物の足跡を織り込んだラグを制作しています。

また、氷室さんには、遊戯室のロールスクリーンに加え、各部屋のサインもデザインしていただきました。文字を刺繍した木のプレートにぬいぐるみを組み合わせる、オリジナリティに富んだ唯一無二のものができました。

Picture Book Corner
えほんコーナー、白樺をイメージした絵本棚スペースから、木の実に見立てた絵本を飾る壁面を見る。
ここはテキスタイルデザイナー氷室友里さんとのコラボレーションによるインテリア。
The space between shelves
絵本棚の間のスペースには、湖に見立てたラグを敷いた。凹凸をつけて魚を表現した。
Picture Book Corner
えほんコーナーは、どこへ行くにも通る動線上にある階段回りのデッドスペースを活用。
rug
奥のラグには動物の足跡をデザイン。
お迎え時には親子で絵本を読む姿も見受けられる。
0-Year-Old Childcare Room
1階奥に位置する0歳児保育室。廊下にはパススルーロッカーとハンガーを設けた。
ハンガーは低い位置に設けて、保護者と園児の目線が合うようにした。
Earthen Floor
1階、エントランスから園庭に沿ってL字に設けた土間。園庭へはここから出入りする。
混雑せず横並びで靴の脱ぎ 履きができ、雪の降る冬も暖かい土間で上着の脱ぎ着ができる。
Entrance
広く土間スペースをとったエントランス。
正面の開 口部から園庭が見通せる。靴箱は雪国特有の長靴を収納できるものを造作。
Temporary Childcare Room
キッチンのある一時預かり室。
子育て支援活動がない時は、乳児クラスのあそびのスペースに使ったり、食育活動などにも活用している。

並木道のような廊下は、雛壇状の収納で多様な空間に

ゆったりと幅をもたせた階段は、1階のえほんコーナーから2階の廊下へと上下階を繋ぎます。2階の廊下には、林側に沿って奥まで連続して窓を設け、並木道のように木々の緑を内部に取り込んで、四季を通して明るく開放的な空間に仕上げました。

また、ただ通り過ぎるだけでなく、車の行き交う高速道路や自然の景色を味わえる子ども達の居場所になったり、作品を飾ったりできる多目的なスペースともなるよう、雛壇状に収納棚を造作しました。

2階、保育室と反対側には遊戯室を置きました。外部に面した西側の全面を窓にして、天井の高い明るい空間としています。ただし、食事は保育室で、お昼寝は別の部屋ですることであそびの継続性を保つという保育方針から、遊戯室をお昼寝の場としても使いたいという園の要望があり、お昼寝時に子ども達が落ち着いて寝られるよう一部の天井を低くしました。

氷室さんがデザインしたロールスクリーンの室内外は、小さな穴で星座が描かれており、お昼寝時には夜空を映し出して落ち着ける暗さを生み出します。

寒冷地ということでより重要となる冷暖房は、近年、夏に冷房が必要となってきたことからエアコンを基本として、保育室は床暖房、エントランスと廊下はガスファンヒーター、遊戯室は窓際に埋込式の電気ヒーターを補助暖房として入れています。

窓の少ない暗い廊下や職員の休憩室、保護者との相談室の不足など、旧園舎での問題点もすべて解決された新園舎。元気よく長い廊下をハイハイするあかちゃん、えほんコーナーや2階廊下で思い思いに過ごす子ども達など、あそびに没頭するその姿が園舎の快適さを物語っているようです。

Second-floor hallway
高速道路沿いに広がる林に面した2階の廊下。雛壇状に収納を造作した。
子ども達の作品を飾ったり、くつろぎの場となったり、多目的なスペースともなっている。
Second-floor staircase hall
2階、階段ホール。美しい自然を背景に、1階のえほんスペースとも繋がる。
Second-floor game room
2階、遊戯室は大きな窓で開放的な空間。
お昼寝のスペースとしても活用していて、子ども達が落ち着けるよう手前半分は天井を低くしている。
Sign
氷室さんデザインのサイン。
木のプレートに刺繍で文字を描き、室名に合わせて制作したぬいぐるみをあしらった。
Nap time
遊戯室でのお昼寝タイム。ロールスクリーンには小さな穴で星座が描かれている。
室内側では夜空を映し出し、外では鳥が羽ばたく青空でまち行く人を楽しませる(表紙参照)。

配置図1/2000

Layout Diagram

平面図1/400

Floor plan
1階
Floor plan
2階

DATA 学校法人 広島大谷学園 「大谷むつみ認定こども園」

学校法人広島大谷学園
施設名「大谷むつみ認定こども園」
所在地北海道北広島市大曲柏葉2-15-8
主要用途幼保連携型認定こども園
定員104名
竣工2024年6月
……
構造鉄骨造2階建て
敷地面積5260.07㎡
建築面積632.40㎡
延床面積1050.67㎡

IMPRESSION ─建設を終えて

学校法人 広島大谷学園
大谷むつみ認定こども園

園長 斎藤 由佳里氏

Principal

固定観念を超える提案がいっぱい。どれも期待以上の効果でした

ジャクエツさんには以前、旧園舎のトイレの改修をしていただきました。建替え案が出た時には、旧園舎から付き合いのあった設計事務所さんとジャクエツさんのどちらに設計をお願いするか検討しまして、最終的にはジャクエツさんにお願いすることにしました。

当時の理事長の「先を考えた時に全国を見ているジャクエツさんの方が 新しい情報がたくさんあるんじゃないか」という判断でした。

建物だけでなく園の運営に関わること、例えば雇用問題とか、全国でたくさんの保育園幼稚園をつくっているジャクエツさんならいろいろと詳しいだろうと。また、ジャクエツさんの子ども達に夢を与えるようなわくわくするデザインも理事長は気に入っていたみたいです。そういったところが、決め手になりました。

設計の際には担当の方がまる1日、子ども達の生活の流れや私達の保育の様子を観察されていきました。冬と雪のない季節と2回も。それで、旧園舎の良いところは取り入れながら、土間など新しい提案を具体的に設計に落とし込んでくれました。

それはなかなか他社さんにはできないことかと思いますね。旧園舎の改修では要望を言ってもなかなか伝わらないこともありましたから。

当初、北海道の会社じゃないというところで、理事達から冬は大丈夫なのという声もあったのですが、室内は明るくて、暖かいです。土間もとてもよかったですね。雪のついた上着を脱ぐのも前は外でやってましたが、それが中で床を汚さずにできるので。

要望したえほんコーナーも素晴らしい空間にしていただきました。漫画チックにならないようにとお願いしたのですが、カーペットも実際の魚や北国の動物の足跡とかこだわってつくってくれました。子ども達にとっては、この足跡なんだろうって教育にもなりますね。

親御さん方もこのコーナーに吸い込まれるように入っていかれて、デザインの力だねって職員とも話しています。絵本を読んで帰る親子もいるんです。「家に帰ったらバタバタしちゃうから、ここで時間を取ってあげるんです」って。

ある園児は地域の図書館に行って司書さんに「うちの園のえほんコーナーすごいんだよ」って自慢したとその司書さんから聞きました。

ジャクエツさんの提案には私の固定観念を超えるものがいっぱいありすぎて、子ども達はどんな反応をするんだろうと、引っ越し当初はドキドキしていました。でも期待以上でした。例えば2階廊下の階段になった収納も、子ども達は絶対上から飛んじゃうよなと、最後までつくることを迷っていました。

園の方針として、否定的な言葉を使わない保育をしているので、これをつくったことでダメって言うことになったらどうしようかと心配だったんです。でも、意外と子ども達は座って、落ち着いてあそんでいて、先生方も目くじら立てることはなくて。

教育もあるかと思いますが、1番上の段はモノを飾るところというのが定着しているので、子ども達もきれいに使おうっていう意識があるんだと思います。

ロールスクリーンも鳥のデザインは私の中では冒険でした。地域に対していいのかな、無地とか無難な方がいいんじゃないかなと迷いもありました。でも出来上がってみて、本当に空と繋がる瞬間があって素敵な空間になっている、地域に彩りを与えてくれていると思いました。外勤から戻って園舎を見て、ふふってうれしくなったりするんです。ちょっと自慢ですね。

JAKUETS

設計士 東京設計事務所建築設計課 玉川遥香

Designer

ここの敷地の魅力である自然を取り入れると共に雪の時期でも暖かく過ごせる園舎を目指しました。新園舎での共有スペースは既設園舎にはない新しい空間を提案していますが、先生方のアレンジがプラスされ、使い込まれていく園舎が楽しみです。

設計監修 福井本社 建築設計課 佐伯祐樹

Design Supervision

当社での北海道内最初の設計実績となりました。現地の協力設計事務所や園長先生にお時間いただいての設計でした。資金計画や市役所との調整、既設園舎の再利用計画など幅広く事業計画をご提案させていただき、地域にとっても良い事業になったと感じております。

テキスタイルデザイナー 氷室友里氏

Textile Designer

園の温かくやわらかい雰囲気を大切にしながら、北海道の自然や動物をモチーフにした遊び心のあるしかけやパターンをちりばめました。えほんコーナーの草原ラグには紙糸を織り込み、触覚でも楽しめる工夫をしました

2025年 3月発行
発行:株式会社ジャクエツ
A2035-0700-11707