J-ARCHITECT
JAKUETS Architectural Design Magazine
Vol.27
土間が四周に回る、
まちの灯りとなる園舎
社会福祉法人 恩恵会 けやきの森保育園貝の花
縄文時代の貝塚のある公園に隣接する、けやきの森保育園貝の花。 老朽化に伴う建替えで、地域のランドマークともなる園舎に生まれ変わりました。 建物の四周に土間が回る開放的なプランは、保育の可能性を広げる多様な空間となっています。
公園と一体となる木造園舎で地域に明るさとぬくもりを

けやきの森保育園貝の花は、千葉県松戸市が運営していた公立「貝の花保育園」を社会福祉法人恩恵会が引き継ぎ、平成23年(2011年)に認可保育園として開園されました。恩恵会は昭和55年(1980年)に設立され、けやきの森保育園を開園、現在はけやきの森保育園貝の花を含む5園を運営しています。
けやきの森保育園貝の花の旧園舎は、公立時代からのもので老朽化が進み、建替えが避けられない状況でした。設計依頼を受けたジャクエツは、より良いイメージの実現を目指し、アトリエ9との共同設計を提案・実施しました。
建替えに際しては、旧園舎で保育を行いながらの新園舎の建設となったことで、園舎と園庭の配置が入れ替わり、園庭と隣接する貝塚遺跡のある公園との連続性が生まれて、保育環境や周辺の雰囲気にもポジティブな影響を与えることができました。
というのも、旧園舎は公園寄りの敷地北側、園庭は南側だったので、園舎が公園に背を向ける形になっていたからです。建替えで、園舎が南側、園庭が北側になったことで、公園と園庭を視覚的に繋げて広々とした外部空間を実現しました。
また、新園舎には保育園が地域福祉に貢献する役割を象徴するようなデザインも求められました。公園は、夜になると暗く寂しい印象を与えていたため、建物自体が柔らかな光を発して地域を照らす、灯りのような園舎という提案が初期段階でなされ、全体の方向性として取り入れられました。
園舎の構造には「けやきの森」という園名にふさわしい木造が採用されました。柱には一般流通材の4寸角材(約12cm角)を使用し、縦横2.4mのスパンで配置しています。このスパンが生むグリッドは間取りの基本となり、吹抜けの天井高を割り出す基準にもなっています。
また、一定の間隔で並ぶ柱は、空間に軽やかなリズムを生み出すと共に、木のぬくもりを添えています。そして、広く流通している規格材を使用することで、コストパフォーマンスにも寄与しました。




ホールを核として同心円状に広がる開放的なプランニング
建物は約27m×30mの長方形で、センターホールを囲むように各保育室が配置されています。外周には幅1.4mの土間を設け、同心円状に外へと広がる構成です。
この設計は、「保育室に入りたくない朝もある」といった揺れ動く園児の心理を考慮し、複数の経路を用意することで選択肢を広げるという発想を具現化したものです。同園では、子どもの思いつきやアイデアを柔軟に受け入れるフラットな環境づくりを目指しており、園舎そのものがその理念を体現しています。
センターホールは、一般的には運動や集会の場として利用されることが多い場所ですが、ここでは「園児が静かに過ごせる場所をつくる」という意図で図書空間としてデザインされました。壁4面には天井まで届く書棚をつくり、閉鎖的な空間としながら天窓から自然光を採り入れることで、適度な明るさと落ち着いた雰囲気となっています。
梁や天井、書棚の木目を生かし、あたたかみのあるインテリアにしました。センターホールと各保育室の間には7か所の出入り口をつくり、行き来をスムーズにしています。書棚の裏側となる通路の壁には収納棚をつくり、職員用の私物や書類などの収納に利用しました。
保育室と土間はどちらもガラス張りで、2歳児室を除き天井が4.4mと高く、とても開放的です。外周壁の上部には乳白色のポリカーボネートを採用しました。このポリカーボネートにより、昼間は保育室に自然光が十分に導かれ、夜には園舎内の明かりが灯ることで建物全体が柔らかく浮かび上がります。行灯のような光景で、まちの灯りというコンセプトを実現しました。




2歳児室以外の保育室は上部が吹抜け状になっており、天井の高さは4.4mと開放的。半透明のポリカーボネイトの外周壁からも豊富に光が入る。

安全のため、上の棚には本の表紙だけをディスプレイ。園児は思い思いのスタイルで自分の時間を楽しむ。

構造用合板の天井やサイズの大きな梁が木のぬくもりをも感じさせ、特別な空間であることを伝えている。

千葉県出身の美術家ロッカクアヤコ氏によりドローイングが描かれ、こもれる空間として親しまれている。
保育の可能性を広げる多様な空間
インテリアは、園児の姿や作品が際立つよう、柱と床は木材、壁・天井は白を基調にその他の色は控えめにして、シンプルなものとしました。ガラス張りの保育室は、土間から園児や職員の様子が見え、保護者にとって透明性が高まります。
しかし、園児の気持ちの安定には、保護者の姿が見えないようにすることも必要なので、プライバシーにも配慮して、臨機応変に開放度を調整できるようロールスクリーンを用意しました。
土間は、各保育室へのアクセスや、給食ワゴンの運搬などに使われますが、単なる通路の役割にとどまりません。保育の内容によって利用方法を見出すことができます。例えば、発表会などの行事では、4歳児室と5歳児室の間の戸を引き分けて空間を繋げ、土間は保護者用の椅子を並べて客席スペースにするなど、柔軟に空間を活用することが可能です。
また、土間は、建具の調整によって夏の日射しや冬の寒さを遮るバッファゾーン(緩衝空間)としても機能し、冷暖房効率を高めています。ただし、特に厳しい真夏には、ポリカーボネートの外壁は断熱性能に弱点があるため、すだれを下げるなどの対策で補っています。
日常的な保育は1階で完結しますが、2階には天井の低いスペースがいくつかあり、その一部は倉庫や職員の休憩場所として使用されています。また、2歳児室の上部にはテラスがあり、夏の水遊びの場などに利用されています。
開放的な園舎は、周囲からの透明性を高め、保護者に安心感を与えるとともに、職員がプロとしての誇りややりがいを感じながら働ける空間として、大きな役割を果たしています。







DATA
社会福祉法人 恩恵会「けやきの森保育園貝の花」
| 所在地 | 千葉県松戸市小金原8-11-1 |
| 主要用途 | 保育園 |
| 定員 | 110名 |
| 竣工 | 2024年3月 |
| …… | |
| 構造 | 木造2階建て |
| 敷地面積 | 2031.87㎡ |
| 建築面積 | 773.74㎡ |
| 延床面積 | 884.59㎡ |
IMPRESSION ─建設を終えて
社会福祉法人 恩恵会 けやきの森保育園貝の花
理事長 小林綾 氏 園長 大友和美 氏
園舎が保育士や子どもの想像力を刺激し
自由な発想を引き出してくれる
小林理事長
新園舎の建築にあたり、最も重要視したのは、子ども達の安全への徹底的な配慮です。ジャクエツは、保育施設の設計において豊富な経験を持ち、子どもの発達を考慮した家具や施設の安全性においても高い水準で対応しています。椅子一つにしても、子どもが無理なく座れるように設計されていたりと、細部にわたる配慮が依頼の決め手となりました。
さらに、ジャクエツのデザイン力にも大きな魅力を感じました。私達は、園舎が単なる機能性にとどまらず、デザインにも力を入れ、地域を明るく照らすような存在であってほしいという思いがありました。
そして、職員が楽しく働ける空間であることも重要です。現代の保育士には、子どもの安全を守るだけでなく、感染症の拡大防止や様々な兆候に気づくことなど、多くの責任が求められています。そのため、保育士が安心してプロとしての職能を発揮できるような職場環境が整っていることも必要です。その設計力に加え、ジャクエツの営業担当者と保育士の信頼関係が深いことも大きな要因となりました。
営業担当者は、日常的に保育士や子どもの様子をよく観察し、必要な物品や改善点を提案してくれます。その信頼関係も含めて、求める園舎の実現に大いに貢献してくれたと感じています。
大友園長
園舎の位置を変更したことで、園庭と公園がつながっているかのような広々とした景観が生まれ、事務室からは園庭越しに公園で遊ぶ園児の様子も見ることができます。これにより、園庭が広がったような豊かな感覚を持つことができるようになり、旧園舎との大きな違いの一つとなっています。
私達職員は普段から子ども達が「これをやってみたい、あれをやってみたい」と、ワクワクするような活動をしていきたいと話しています。新しい園舎は、工夫次第で様々な使い方ができる自由度を持っており、私達にぴったりの空間だと感じています。
新園舎を使い始めた当初は、特に行事の進行方法について戸惑うこともありました。それは、「発表会はステージの上で行うもの」という過去の経験から来る固定観念に縛られていたからです。
しかし、職員や園児と話し合う中で、間仕切りを幕のように使って演出し、園児がそこから登場するのも面白いのではないか、またお誕生会をセンターホールで開くのも素敵だろう、といったアイデアが浮かびました。このように、園舎がみんなの想像力を刺激してくれることが非常に魅力的です。
センターホールに本を集めたことも、子ども達に変化をもたらしています。子どもが自主的に本を手に取るようになりました。小さい子が大きい子に影響を受けて図鑑をめくる場面も見られ、自由に本を楽しむ姿が増えたと感じています。
JAKUETS
設計士 東京設計事務所 建築設計課 青柳大祐

理事長先生より、「新しい園舎をきっかけに行政にアプローチし、新しいことにチャレンジしていきたい」という強い思いをお聞きし、まちの灯りとなるような園舎をご提案しました。使い方の幅を狭めないよう自由度の高い、立体的で交錯する園舎のプランはイメージが難しかったかと思いますが、日々工夫をしながら保育をされており、地域とともに成長していく保育空間を実現できたと実感しています。
ディレクター 船橋店 萱森貴志

松戸市を拠点に1980年以来業いでこられた法人も小林理事長に「BATON」が繋がり最初の大きなプロジェクトに担当者として関わることができて大変嬉しく思います。地域のランドマークになる園舎の外観コンセプトにも共感いただき、内部のセンターホールと合わせてオンリーワンの園舎が完成しました。これからも地域の方から愛される保育園であり続けてほしいです。
設計士 アトリエ9建築研究所 代表 呉屋彦四郎氏

同心円状に広がるコミュニティの輪を「囲まれた多目的空間」を中心に、保育室、土間、保護者、園、地域とコミュニティの輪が広がるような園舎づくりを目指しました。子どもの成長を皆で見守ることを目的とした計画となっています。
2025年1月発行
発行:株式会社ジャクエツ
A2015-0700-13514



