J-ARCHITECT
JAKUETS Architectural Design Magazine
Vol.31
伝統と新しさが融合する、
中庭を内包した園舎
学校法人 緑学園 幼保連携型認定こども園 平手幼稚園
愛知県名古屋市緑区に位置する平手幼稚園は、2024年4月より新園舎で認定こども園として再スタートをきりました。レンガタイル張りのクラシカルな外観に、中庭を内包した明るくモダンな内部空間が広がる、伝統性と先進性を表現した園舎です。
連続する窓に、重厚なレンガタイルと、軽やかな屋根

園庭側には避難用を兼ねた滑り台を設置。1階、正面中央はピロティで、中庭へとつながる。
戦後に寺子屋から始まり、ここ名古屋市緑区で長きにわたって幼児教育に取り組んできた平手幼稚園。令和に入り、時代はこども園へと流れる中、旧園舎の老朽化もあり、こども園への移行と園舎の建替えを決意されました。
しかし、住宅が密集する都市部での建替えであることや少子化といった時代背景などの様々な要素が重なり、プロジェクトは難航。紆余曲折を経てジャクエツがコンサルティングから設計まで総合的に携わることとなり、設計ではアトリエ9との共同設計にて進めました。
まず園からの要望は、ヨーロッパの古い建築のようなレンガを用いたネオクラシカルな園舎というものでした。そして素材は本物を使うこと。日々のあそびの中で本物に触れることによって美意識や感性、創造力を育んでいくという教育・保育方針に基づく要望でした。
それらを踏まえて提案したのは、シャープに水平線を描く屋根に、縦長の窓を連続させたクラシカルなレンガタイル張りの園舎です。構造は、改築・改装に柔軟に対応できる鉄骨造にして将来に備えました。レンガタイルは、窯業の盛んな愛知の技術力を活かして、レンガブロックのような重厚感あるタイルを特注しています。外構にも穴あきブロックを採用しました。
厳格さを醸し出す規則性ある外観は、多くの伝統建築でも使われてきたモジュール(基準とする寸法)を用いたオーソドックスな設計手法によるものです。一定寸法の繰り返しは心地良いリズム感と共に安定感をもたらし、シンプルなつくりは構造的な安定にも繋がります。
屋根は、一般的には屋根上に載せる設備類を部分的に凹ませて納めることで、薄くすっきりしたものにしました。この浮遊感を帯びた屋根は、クラシカルなレンガタイルの躯体に対して、子ども達の未来に向けた先進性や新しさの表現でもあります。また、周辺にもっと建物が混んできた時にもこの屋根だけは浮いて見える、そんな先の風景をも見越した設計でもあります。

外壁は素焼きのレンガタイル。この建物のための特注品で、レンガ造のような重厚感を意図してデザインした。

光をもたらす中庭、いつでもあそべるピロティ

中庭側は床から天井までのガラス窓で開放的な廊下が回り、1階も見通せる全方向に開けた空間となっている。

中庭には周辺の建物などが一切入ってこない、この園だけの空が広がる。園庭側の2階下はピロティで、雨や強い陽射しを避けてあそべる場となっている。
平面計画は、1階はコの字型、2階はロの字型となっています。中心部に中庭を設け、園庭側の1階中央はピロティにして中庭から園庭へと繋げました。
雨や陽射しの強い日にもあそべる場となるピロティは、旧園舎にあった大きな庇の下の空間を継承しています。いつでもあそべる外部空間の記憶と楽しさをこのピロティに込めました。そして、中庭を囲んで1階には職員室、厨房、遊戯室、低年齢児室を、2階には3歳から5歳児室と子育て支援室を配置しています。
中庭は、外部からはうかがい知れないこの園だけの外部空間です。その中庭に面する壁は、床から天井まで全面ガラスにして、暗くなりがちな内部を外のように明るくし、対面や上下階とのコミュニケーションもとれるようにしました。
また、視覚的にも外と繋がっているように、内部の壁も外壁と同じレンガタイルを用いました。同じ材質ですが、内部のタイルは触れてもケガをしないよう滑らかな表面加工を施しています。
外観と同様、内部空間もできる限りシンプルにする工夫をしています。通常は梁が空間に露出してしまいますが、ここでは梁を無くし、その分の強度を出すために床は片持ちのコンクリートスラブとしています。薄く強い床で、梁の無いすっきりとした空間を実現しています。
このように構造によって内部のつくりが明らかに違ってくる顕著な空間として、2階の3歳児室があります。ここは造作した小上がりスペースによって3つに分かれていますが、空間としてはワンルームで様々な使い方が可能です。当初は3室の計画をしていましたが、2期目の工事に入った時点で、藤森メソッド(異年齢児保育、ゾーン保育を提唱)を取り入れることが検討され、3室を一体で使えるよう変更することになりました。
厳しいスケジュールの中、変更を可能にしたのは、設計・施工側の熱意と理解はもちろんですが、もともと先々のために改修しやすい鉄骨造でモジュール化した設計を行っていたからに他なりません。

ワンルームの大空間を2つの小上がりスペースによって3つの空間にやわらかく分けている。

正面の壁面収納は、園のロゴをモチーフにした図柄をプリントしたもの。下地の木目が透けて見える繊細な仕上がり。

低くすることで2階にいる子ども達と視線が合い、コミュニケーションの幅を広げている。

送迎時、保護者が入れるのはここまで。階段を上がった先にある窓は、外で見送る保護者と子どもとのコミュニケーションの場でもある。
日々触れるものすべて本物で
本物という園から投げかけられたキーワードを、素材に限らず園舎を構成するすべてのものに反映すべく、各分野で本物を生み出す方々に参加いただきました。
インテリアデザインについては、インテリアデザイナーの五十嵐久枝さんに担当いただきました。家具は五十嵐さんのデザインですべて特注です。ここ緑区は江戸時代から絞り、染めの産地であることから、インテリアも藍染めなどの日本の伝統色による色彩計画としました。
サインは、グラフィックデザイナーの木住野彰悟さんによるもので、壁材と同じレンガで制作しました。壁からレンガタイルと同じ寸法で飛び出ている点がポイントで、差し込み口をつくって差し替えられるつくりにしていいます。木住野さんには園のロゴも新たにデザインいただきました。園名であり地域名である平手と子ども達の手をモチーフにした躍動感溢れるものです。
また、遊具など子ども達が日々触れるものも本物を選びました。中庭に置かれた、川石を象った遊具は、ミナ ペルホネン・皆川明さんのデザインです。
制服や体操服も皆川さんのデザインで、制服はスカートかズボンか選べるジェンダーフリーのものです。全体的にオープンなつくりの園内には、籠もれる場所ともなる家型の遊具を置きました。アーティスト・ロッカクアヤコさんによる楽しい鮮やかな絵が内側に描かれていて、あそびながら本物のアートに触れることができます。
先生方が思い描く子ども達のストーリーを存分に繰り広げられるよう、目指したのはシンプルを極めた空間でした。古典とも言える基本的な設計手法に新しい工夫を加えることで、園舎全体どこをとっても絵になる、本物が映える美術館のような空間が実現しました。

収納棚やテーブルなどの家具デザインと色彩計画は五十嵐久枝さんによるもの。カラーリングには日本の伝統色を取り入れた。


ちょっと籠もれる、エスケープゾーンとしての使用も考慮している。

壁のレンガタイルに合わせて制作。
壁に差し込み口をつくり、取り外し可能にしている。園名とてのひらをモチーフにした園のロゴも木住野さんのデザイン。

平面図1/400


DATA 学校法人 緑学園 幼保連携型認定こども園「平手幼稚園」
| 所在地 | 愛知県名古屋市緑区平手北 |
| 主要用途 | 幼保連携型認定こども園 |
| 定員 | 190名 |
| 竣工 | 2024年3月 |
| …… | |
| 構造 | 鉄骨造2階建て |
| 敷地面積 | 2451.82㎡ |
| 建築面積 | 943.11㎡ |
| 延床面積 | 1489.82㎡ |
IMPRESSION ─建設を終えて
学校法人 緑学園 幼保連携型認定こども園
平手幼稚園
理事長 宮田道明氏(左) 園長 宮田永子氏(右)


すべてがこの園舎にとって大事な要素
宮田理事長
当園は50年前に学校法人になったのですが、旧園舎はその時に建て替えたものでだいぶ古くなっていたのと時代の流れもあり、6、7年前からこども園への移行と併せて建替えを構想し始めました。ジャクエツさんにはトイレの改修などでお世話になったこともあり、事業全般に渡って相談していたのですが、諸事情によって新園舎の設計は他の設計事務所にやっていただくことになったんです。
それで設計を進めていったのですが、どうも感覚的にずれが生じてきて、どうしてもその溝を埋められず。その事務所さんが悪いとかではなく、相性もあったのでしょうね。それで、再度ジャクエツさんに設計をお願いしたんです。アトリエ9さんと共同設計していただくことになり、そこから本当に信頼して進むことができました。
私達の要望は、レンガを使ったネオクラシカルな建築でした。中庭のプランについては、打合せで私が話した中国の土楼(中央に中庭 / 広場を設けた土壁造の円形の集合住宅)を反映してくれたのだと思います。
建築の内と外の関係性であるとか何気なく話したのですが、そういうことにも耳を傾けて具現化してくれました。設計士、デザイナーみなさんとの出会い、ご縁の御陰だとつねづね思っています。
宮田園長
バランスの取れた園舎ができて、とても居心地がいいです。建物はもちろんですが、例えば外構の穴あきブロックなど、すべてがこの園舎にとって大事な要素だったんだと日々の保育で実感しています。乳児も穴から顔を覗かせて道行く人とコンタクトをとっていたり、すごく微笑ましいです。
この園舎では、子ども達の目に自然といろいろな光景が入ってきて、知的な好奇心を刺激し、五感を活性化しているような感じがします。すべての要素がトータルにまとめられたことで、私達がどういう保育や教育をしていきたいのかがとても明確になりました。
こども園となり新園舎で過ごして1年が経った今、次に何をしていくべきなのか目標が見えてきたというところです。少しずつ当園らしさが出せる空間を工夫できるようになってきました。
JAKUETS
設計士 アトリエ9建築研究所


平手幼稚園新園舎は、子ども達の表現を包み込むアートの場となることを意図しました。素焼きレンガの質感や庇の陰影は静けさを生み、縦長の窓が刻むリズムは秩序と美を描き出します。中庭を囲う廊下や連続するガラス面は光と視線を交差させ、園児・職員・地域を結ぶギャラリーのような空間を形づくります。
素材本来の質感を活かした細部の工夫は、日々の遊びや学びを作品のように際立たせ、保育の風景を豊かに広げます。設計の過程では園からの言葉を丁寧に受け止め、一つひとつを空間に託しました。その積み重ねが教育理念と建築を共鳴させ、ここにしかない園舎を生み出したと考えています。
園舎が変わることで保育の可能性も広がる─平手幼稚園は、子ども達の成長を映し出すアートの場です。この時間が未来をさらに輝かせていくことを願っています。
インテリアデザイナー イガラシデザインスタジオ 五十嵐久枝氏

建築で選定された本物の素材や色を、インテリアにも丁寧に取り入れました。外壁のレンガタイルの温かみや、有松鳴海絞りに由来する藍色など、地域の文化に根ざした色彩を活かしています。家具の形状にも子どもたちの自由な活動が広がるよう工夫し、感性や創造力が育まれる空間を目指しました。
グラフィックデザイナー 6D 木住野彰悟氏

園の理念「本物にふれ、本物になる」を体現するサインとして、「レンガの建物にレンガのサインを」をコンセプトに、建物と同じレンガを壁から突き出したようにデザインし、建築と一体化したサインになりました。園児たちが毎日触れる情報は、空間に溶け込み自然な存在感を放ちます。
設計監修 福井本社 建築設計課 佐伯祐樹

今回の設計業務は打ち合わせの度に、常に変化と変動しつつ、好転と発展の連続でした。建築家、デザイナー、有識者、博識者の思いをカタチにし、当社の総合力を発揮できた仕事だと、とても満足しております。数多くの方にご協力いただき誠にありがとうございました。
2025年 10月発行
発行:株式会社ジャクエツ
A2085-0700-11707



