J-ARCHITECT
JAKUETS Architectural Design Magazine
Vol.25
10年を経て実現、
使いながらの建替えプロジェクト
学校法人 永照寺学園 永照幼稚園 庫裏+低年齢児棟

広島市で75年近く心身ともに子どもの可能性を高める幼児教育に取り組んできた永照幼稚園は、新園舎を建設し、長年培ったカリキュラムを元に幼稚園型認定こども園へと移行しました。10年に渡る紆余曲折と困難な建替えを乗り越え、これからの時代に応える素敵な新園舎ができました。
庫裏を建て替えて、低年齢児棟を新設
施工は、住まいながら使いながら
2023年12月、永照幼稚園の新園舎が完成しました。同園は、1945年に広島市にて浄土真宗本願寺派永照寺を母体に設立された、広島市内の広域からも目指してきてくれる幼稚園です。あそびの中から知能を育んでいくプログラムや、英会話、茶道などの知性教養を培っていくプログラムに加え、リトミック、体操教室など身体面でも子ども達の可能性を伸ばしていく活動を行っています。
上履きには、足裏を使い刺激を与えることで健康面だけでなく脳の成長にも良いという草履を用いているのも特徴的です。このように質の高い幼児教育に努めている永照幼稚園が、ニーズの高まりに応えて低年齢児を受け入れ、幼稚園型認定こども園へと移行すべく新園舎の建設に取り組みました。
新園舎は、永照寺と既存園舎の間にある、園長先生が住まわれていた庫裏(くり)(住職家族の住まい)を建て替えたものです。3階建ての1階2階を低年齢児用の保育施設に、3階を住居(庫裏)としました。そして、保育室は2階に配置し、1階にはランチルームにもなるオープンスペースと調理室、多目的室を設けて、地域に開いて様々に使えるつくりとしています。
計画においては、日本庭園だったところに新園舎を建て、庫裏のあった場所は第二園庭としましたが、新園舎は日本庭園よりも大きく、かつお寺の用途を維持しながら建て替えることが条件だったことから、工期を2期にわけています。建物の半分を建ててから庫裏を壊し、できた半分を使いながら、残り半分を建てるという安全管理が難しい施工となりました。
具体的には、建物の半分ができたところで3階は庫裏として住まい始め、1階2階では低年齢児の保育をスタートして2024年4月より幼稚園型認定こども園へと移行しました。
保育をしながら、壁を隔てた向こう側では施工をしているという、なかなかハードな環境が強いられることとなりましたが、いざという場合の避難経路確保など安全対策には万全を期し、無事、予定通りのスケジュールで施工を終えることができました。

土間には広島の自然や名物を描いたゴムチップを敷いた。

座って脱ぎ履きできる。

奥に砂場だけ設けた。植栽の合間には庫裏の日本庭園にあった石を残している。

本堂から続く落ち着いた街並みに合うよう、シックな色合いでシンプルモダンにデザイン。
近隣のマンションからの視線が気にならないよう、窓の大きさや位置を考慮して落ち着きのあるつくりとした。

周辺にマンションや住宅が建て込んでいるので、
外からの視線が気にならないよう高い位置に窓を設けて安心できる空間とした。

可動式の収納で仕切って、保育の内容に合わせたスペースをつくり出している。
ピンクの壁は便利なマグネット塗装。

保育の予備室として、様々に活用されている。

保護者や門徒・地域の方々などとのコミュニケーションスペースとして設けた。

イベントなど多様に活用できるよう、カフェのようなインテリアに。
第一園庭側の開口部(左)をオープンにして利用することも可能。
カウンター席では保護者が子ども達の様子を見ながら楽しむことができる。
10年に渡る紆余曲折
既存園舎は耐震補強と改修で機能を強化
新園舎の設計には約8ヵ月、施工には約1年3ヵ月がかかりました。同じ場所で使いながらの建替えとしては比較的短期間に思えるかもしれませんが、このプロジェクトを実現させた背景には、実に10年にも及ぶ紆余曲折の期間がありました。
永照幼稚園から相談をいただいたのは2013年、当初は園舎の建替えや増築が検討事項に挙がっていました。時代の変化と共に低年齢児の受け入れニーズが高まり、幼保施設に関わる制度も変化し続ける中、永照幼稚園としては満3歳児受け入れのための保育室の増設や、古くなってきた園舎機能の充実を図るため検討を重ねていましたが、建設に伴う近隣への影響や制度の問題など様々な大きな壁が立ちはだかり、断念せざるを得なかったという経緯がありました。
さらに、そういった検討を繰り返している間、新制度(認定こども園)がスタートしました。そこで、まずは幼稚園としての機能の強化を図ろうと、2017年に旧園舎の耐震補強と改修を実施しました。建物の要所要所に耐震補強工事を行い、保育室のインテリアも一新しています。
そして、周辺には幼保連携型認定こども園や保育所型認定こども園が増えていく中、永照幼稚園としては長年培ってきた幼児教育を糧に幼稚園型認定こども園への移行を決定し、保育施設を増設するために庫裏の建替えに至りました。
この10年間は、待機児童から少子化へと極端に問題が変化した時代でした。正解の無い選択を迫られる中、永照幼稚園がとった策は先が読めない時代の変化にも対応できる建物づくりでした。新園舎はこれから訪れるかもしれない課題にも柔軟に応えられるつくりとなっています。
既存園舎の耐震補強工事
2017年には既存園舎に耐震補強工事を実施しました。開放廊下にはポスト柱を設置しました。南側の棟には、ブレースタイプの補強体を建物に外付けするピタコラム工法による耐震補強を施しています。北側のポーチは、二重鉄管ブレースで補強し、腰壁を設けてベンチを造作しました。バスを待つ子ども達の居場所をつくりました。

この白い外壁の外側に樹形の補 強体を施工。

オープンだった柱間に二重鉄管の ブレースを施工。


鉄筋コンクリートで つくっている。

1階2階とも園庭側は開放廊下となっていて、デッキスペースは各保育室への出入り口でもある。
耐震補強工事では、このスペースはポスト柱で補強した。

保育室の扉回りを刷新、インテリアも照明や収納などを新しく整え、幼稚園機能の強化を図った。

補強体は園舎に馴染むよう、樹形のようなデザインとした。

腰壁とベンチを造作して、子ども達の憩いの場に。
庫裏建替え+低年齢児棟建設+既存園舎耐震補強・改修プロジェクトの道のり
| 2013年度 | 幼稚園の建て替えについて相談を受ける 同時に当時の職員駐車場に保育園新築の相談も受ける(公募事業) ➡︎ 園新築当時に幼稚園設置基準の特例を受けているため、既存と同規模の園舎が建設できないことが判明し、建替え断念 |
| 2015年度 | 事業方針を「耐震補強工事」+「増築・改修工事」に変更 ➡︎ 諸事情により、増築工事は見送ることになった新制度(認定こども園)スタート |
| 2016年度 | 事業方針を「耐震補強工事」+「改修工事のみ」に変更・決定併行して、幼稚園機能強化+庫裏建替えのため、低年齢児棟の検討スタート ➡︎ 事業予算などの諸事情で計画は一旦中断 |
| 2017年度 | 「耐震補強工事」+「改修工事」のみ実施 (耐震補強工事:私学施設整備補助) ➡︎ 園舎の耐震性を向上し、外観・保育室を改修して幼稚園機能を強化 |
| 2018年度 | 企業主導型保育所などの検討を進める |
| 2020年度 | 庫裏建替え+低年齢児棟建設 (厨房+ランチルームを含む)の検討再開 併行して、こども園化について幼保連携型か幼稚園型かを検討し、小規模保育事業などへの参入を協議 |
| 2021年度 | 『幼稚園型認定こども園』化で事業方針決定 ➡︎ 小規模保育事業への参入は広島市のニーズがなく断念 幼保連携型は当面、見送りとして決定 ➡︎ 既存庫裏を使用しながら建設する方針も決定 |
| 2022年度 | 設計に取り組む 9月より園舎の保育と庫裏の使用を継続しながらの工事を開始 新園舎一期分を実施 |
| 2023年度 | 幼稚園型認定こども園として0歳児からの保育を開始 新園舎二期分を実施し、12月に竣工 |

❶ 2022年 着工前

❷ 2022年 STEP 1:一期工事(新園舎一期分)
本堂部改修、事務室改修、既存園庭撤去、 新園舎棟建設、既存事務室・倉庫部解体

❸ 2023年 STEP 2:一期工事後、既存庫裏解体
既存庫裏棟+本堂接続部解体、本堂接続部改修、 連絡ブリッジ棟建設

❹2023年 STEP3:二期工事(新園舎二期分+外構)
新園舎棟二期分建設、第二園庭整備、連絡ブリッジ接続


南側には学校のグランドがあるが、周辺には住宅やマンションが建て込んでいる。
配置図 1/1500

平面図 1/500(3、4階略)


DATA 学校法人 永照寺学園「永照幼稚園」
| 所在地 | 広島県広島市西区大芝2-10-30、10-32の一部 |
| 主要用途 | 幼稚園型認定こども園 |
| 定員 | 349名 |
| 竣工 | 2023年12月 |
| …… | |
| 施設名称 | 庫裏+低年齢児棟 |
| 構造 | RC造(耐火建築物)3階建て |
| 敷地面積 | 2438.02m² |
| 建築面積 | 402.29m² |
| 延床面積 | 1026.39m² |
IMPRESSION ─建設を終えて
学校法人 永照寺学園 永照幼稚園
理事長 龍永和成氏

正解がわからない選択の中で、建替えを決意
龍永理事長
これからどうしていこうかと考え始めたのは12、3年前だったと思います。こども園とか無償化とか、そういう話はまだなかった頃で、ジャクエツさんにも相談して、いろいろな情報を聞きながら、当園はどうあるべきか試行錯誤していました。
ジャクエツさんとはもう何十年とお付き合いが続いていて、ふだんから情報交換もしていましたし、ジャクエツさんが手掛けた園さんの見学にも連れていっていただいたりしていましたから、もう当たり前の存在でしたね。
いろいろ検討して、途中で既存園舎の耐震補強工事をして、最終的には庫裏の建替えを決めましたが、その時も迷いなくジャクエツさんに頼みました。やはり安心感というところでしょうか。当園のことをよく知っていてくださるところや、いろいろなノウハウをもっているところなど安心できました。
新園舎では必要な保育室数や調理室、園庭、それに新たな庫裏(住まい)とうまくプランニングしていただいて、こちらの希望は実現できました。竣工からそろそろ1年が経ちますが、子ども達も先生方も気持ちよく過ごせています。使い勝手もよくて、よい動線になっているんじゃないかと思います。
振り返ってみても、本当に先が見えない、正解がわからない事業でした。でも、それはこれからも同じかと思います。私は当園の母体である永照寺の住職でもありますので、幼稚園として保育園としてということを越えて、法人としてこの地域で何をしていくか、これからも考え続けていかねばなりません。
その時にこの新園舎は様々な可能性を発揮し、未来にも応えてくれるのではないかと思っています。
園長 龍永禎子氏

長年培った幼児教育を軸に新園舎で保育をスタート
龍永園長
10年かかってしまいましたが、はじめからこういう風にとはっきりしたものがあったわけではなかったんです。先代が建てた庫裏を建替えることもなかなか決心できなかったのですが、次の世代への引き継ぎなども考えると、やってよかったと思っています。
こども園への移行も、長く幼稚園としてやってきた当園としてはためらいがあったのですが、新園舎でスタートしてみてよかったと思うことがたくさんありました。
例えば、給食です。これまで幼児期はなるべくお母さん手づくりのお弁当を食べて欲しいという考えでやってきたのですが、調理室とランチルームをつくって、子ども達が楽しそうに食事している姿を見たら、とてもよかったなと。
今も週一回はお母さん方にお弁当をお願いしていたり、ランチルームは交代で使っているのですが、子ども達はランチルームに行くのがとても楽しそうなんです。保育と食事の場面を変えてあげるというのは、大切なことだと実感しました。
新園舎に乳児も安心して遊べる園庭をつくったのもよかったと思います。第一園庭は大きい子達がボールあそびや激しい運動をするのでやはり危ないんですね。そして、遊具を置かなかったのもよかったです。小さい子は遊具がないほうがあそびやすいと思います。
いろいろと時代は変わっていきますが、当園の芯になるものは長い年月で培ってきた幼児教育にあると考えています。それを軸に大事にしてやっていきたいですね。
JAKUETS
設計士 広島設計事務所 建築設計課 森口 浩

永照幼稚園様が時代のニーズと共に進化し続けてこられた中、私は10年前から各事業に係わらせていただくことができました。この度、一つの節目を迎えることができたことはたいへん嬉しく、永く私どもへご依頼いただいたことへの感謝しかありません。
設計士 広島設計事務所 建築設計課 𠮷川直輝

永照寺と既存の幼稚園に挟まれた土地に計画する上で、外観はどちらに対しても偏りが生まれないように中庸な外観を目指しました。タイル貼りやルーバー、打ち放しコンクリートなどを部分的に取り入れることで既存建物との一体感を図っています。
ディレクター 広島店 安田 淳

10年以上の歳月の中で、その時々のベストな判断を模索されたひとつの集大成として、この新園舎がカタチとなりました。幼稚園様がアップデートされる機会に立ち会えたことを誇りに思うと共に、これからも継続したご発展のお手伝いができるよう努力して参ります。
ディレクター マネジメント サポート専門営業 山添大輔

企業主導型保育事業をご検討中に訪問し、新しい事業内容をご説明した結果、事業は見送りとなりました。そのプロセスがあり、今回の事業が法人様にとって最良のご提案だったのではと感じております。今後も法人様のお手伝いをさせていただければと思います。
2024年 11月発行
発行:株式会社ジャクエツ
A2114-0700-14300



