J-ARCHITECT
JAKUETS Architectural Design Magazine
Vol.23
自然に溶け込みながら子どもを守る
森にひそむ巣のような園舎
学校法人 浅野学園 幼保連携型認定こども園 玉造幼稚園

手前の大木はスダジイ。園庭では既存の大木が枝葉を広げ、園児達に緑陰を提供している
街中から一転。千葉県成田市で約40年間、幼児教育に取り組んできた玉造幼稚園が新たな地に選んだのは古墳や縄文遺跡が残る森の中でした。自然の中のあそびを通して子どもの力を引き出す教育理念を体現する園舎として、「森の延長でありながら、陽の光に包まれる場」が実現しました。
敷地のポテンシャルを引き出し、園のコンセプトを体現
玉造幼稚園は今から40年ほど前、成田空港開設に伴い成田ニュータウンで開園。空港で働く世帯の子ども達の育成を担ってきました。
しかし、園周辺の宅地が密度を増すにつれ、保護者が駐車するためのスペース確保が悩みの種に。手狭になったのもあり、移転を模索するなかで、理事長が偶然見つけたのが、鬱蒼とした森を擁した小山のような約9400 m²の土地でした。相談を受けたジャクエツは、成田市を含む複数の地権者との交渉に携わるなど、土地の取得から新園舎づくりに関わりました。
移転に際し、園は幼保連携型認定こども園への移行を決め、自然の中の外あそびを通して園児の力を引き出す教育理念を強化する方針を明確化しました。
そこでジャクエツは、森を生かした魅力あふれる園舎を設計するキーマンとして、建築家の橋本尚樹氏に参加いただきました。橋本氏には福井本社工場の改修プロジェクトで力を発揮していただいた経緯もあり、この立地環境で園が目指す教育理念を園舎という建築に体現できる建築家だと考えたからです。ジャクエツは、保育設備の監修・アドバイスを行いながら、橋本氏の設計をサポート、実現に取り組みました。
敷地は、太古の昔、縄文人が暮らした跡や古墳が残っている森で、木々に覆われた山のような斜面と、過去に畑だった平らな頂部エリアの2つのゾーンがありました。コストを抑えるためにも、できる限り造成を小規模に収めることが求められ、平らな頂部エリアに森と絡み合うように園舎を配したことは必然でした。
敷地の持つ財産である既存の大木や、出土した古代の遺構を除けつつ、必要条件を満たす面積を確保。園舎は楕円形にして周囲に回廊を巡らせ、24のアーチで保育室を森へと開いています。駐車場から玄関までの登り坂は、52段の緩やかな階段に仕立てました。森の中を散策するように上がっていくと、木々の向こうにコロッセウムのような園舎が少しずつ姿を表す情緒豊かな道のりです。

森と近い位置関係は工事の苦労を伴ったが、竣工2年ですでに森と一体となる光景を生んでいる。

表裏のない楕円形の園舎で森と交わる
「橋本さんは設計前に何度も敷地をリサーチしたり、園にも1日中滞在して子どもの様子や動線を観察していました。ジャクエツさんも、移転がスムーズにいくように旧園舎の使われ方を検証してくれて」と浅野正博理事長。
旧園舎には室内温水プールがあり、新園舎にも設けるという条件以外は、ほぼ建築家に委ねることに。まるで巣のような楕円形の園舎にはすべての保育室が森と向き合うよう円周に沿って並べられており、保育室から直接森へと出ていくことが可能です。
ただ、園舎は力強い自然から子ども達を守るシェルターの意味もあるので、回廊を設けることで森と一歩距離を取ったのもポイントです。
楕円形の性質上、保育室それぞれが開く方位が少しずつ違うのも、この園舎ならでは。直射日光は望めないが安定して穏やかな光が得られる北側エリアでは、1階に室内型の温水プールや調理室を、2階にお昼寝時間が長い0、1歳児室を配しました。
円周に沿わせた保育室に対し、遊戯室は広場のように中央に配置しています。柱のない大空間は鉄骨造によって叶えられ、外周に鉄筋コンクリート造の回廊を巡らせることで地震の横揺れに対応するハイブリッド構造として、自由な空間と耐震性を両立させています。
遊戯室は2階分吹抜けの無柱空間で、丸い天窓からの自然光に満たされています。2階へは、吹抜けをゆったりしたカーブで取り巻く階段からアクセス。下から支える柱を設けない吊り構造の階段で、フロアをフリーに。雨の日も体を動かして遊べることはもちろん、スクリーンを窓側に垂らし可動式のステージを据えれば、ホールとしての使用も可能です。
式典の際は、ガラスの仕切りでオープンな保育室をカーテンで覆えるよう、天井にカーテンレールも組み込みました。遊戯室では、各種の課外教室が行われることがあり、遊戯室を中心にした配置によって活動の様子が他の園児の目にも触れることから、興味の掘り起こしにつながるというメリットもあるそう。「シンプルなつくりだからこそアレンジしやすい」と副理事長は話します。

アーチの有機的な曲線と丸い天窓が、空間の楽しげなアクセントに。

遊戯室を取り巻く保育室の配置は、園児にとっても理解しやすいシンプルなプランだ。





デザイナーとの共働で世界観を構築
森の中という敷地環境で「内と外の空間を等価に扱う」という建築コンセプトから、全体計画において、ランドスケープデザイナー・上條慎司氏にもアドバイスをもらいました。
運動場以外は、元々あった傾斜や凸凹を均すことはせず、逆にあえて水たまりをつくるなどチャレンジングな試みもしています。これは、子どもに移動やあそびの中で自然にバランスや危険を回避する能力を身につけさせることをねらったものです。
また、森の木々は明るさを得るため適度に間引く程度に留めました。園舎近くのスダジイの巨木はシンボルツリーとなり、保育室からもどっしりした幹を見ることができます。他にも、小山状の古墳の回りをお散歩コースにするなど、生活の中に地形や樹木、縄文時代から人が暮らしていた痕跡までを取り入れる工夫がなされました。
「移転した初日に、子どもたちが竹林に入って竹を叩き、感触や音を楽しんでいたことが印象的でした。保護者には、園庭で転ぶことも学びのひとつと説明しています。実際、2 ~ 3 ヵ月経つと転ばなくなるんです」(浅野理事長)。
園の方針をより良く伝える上で、グラフィックデザイナーが加わり、総合的にデザインしたことも特筆すべきことでしょう。グラフィックデザインを担った三澤遥氏は、園章やサインに加え、クラス名の提案や帽子など色のプロデュースも手掛けました。
園の教育理念や園舎の設計コンセプトに沿った提案が実現されたことにより、敷地を含めた園舎全体が完成度の高い世界観の発信源となり、保護者の共感も集めています。





どことなく和を感じさせるカラーや美しく抽象化された造形は、子どもらしさといった既成概念から解き放たれた質の高いデザイン。


配置図 1/1700

平面図 1/600


全体立面図 1/800

DATA 学校法人 浅野学園 幼保連携型認定こども園「玉造幼稚園」
| 所在地 | 千葉県成田市 玉造5丁目 |
| 主要用途 | 幼保連携型 認定こども園 |
| 定員 | 297名 |
| 竣工 | 2022年3月 |
| …… | |
| 構造 | 鉄骨造2階建て 一部鉄筋コンクリート造 |
| 敷地面積 | 9436.79㎡ |
| 建築面積 | 1332.96㎡ |
| 延床面積 | 1828.48㎡ |
IMPRESSION ─建設を終えて
学校法人 浅野学園 幼保連携型認定こども園
玉造幼稚園
理事長 浅野正博氏

振り切った園のコンセプトを発信してくれる園舎です
鬱蒼とした藪をかき分ける山登りのような敷地の視察という冒険から、このプロジェクトは始まっています。その時すでに橋本さんを中心とした設計チームの相性の良さが形成されたのかもしれません。
当園は、「丈夫な体」「温かい心」「創造する力」を40年掲げてきましたが、少子化が進む中でより振り切ったコンセプトを打ち出す必要性を感じていました。移転とこども園への移行は絶好の機会であり、自然の中で大胆に遊ばせ、オーガニックの給食で体と心を育む方針を固めました。
園舎はそれを象徴するものが望ましく、また、特異な敷地環境を活かすアイデアも必要でした。ジャクエツさんに橋本さんをご紹介いただき、設計事務所勤務時に担当された建築を拝見し、また大学の卒論が子どもの施設だったとうかがったことから、お願いすることに。
橋本さんを始め、メンバーは熱意とこだわりが私たち以上。チームの雰囲気の良さから、こちらの考えを言いやすかったですし、私達のことをよく理解し先回りしてくれることも多かったですね。打ち合わせを重ねるうちに、保護者と同世代の彼らに任せた方がいいものになるだろうと確信して、口を挟むことは控えました。
新園舎引っ越しの第一日目から、子ども達の行動に躊躇が見られなかったことは驚きでした。遊戯室を中心にすべての保育室が見える構成がわかりやすく、素早く馴染むことができました。今後はカフェを隣接させるなど、地域交流のランドマークとしても発展させていきたいと考えています。
JAKUETS
設計監修 福井本社 建築設計課 佐伯祐樹

今回の事業は当社として、移転先の土地選びから一緒に検討されていただき、県や市役所などの行政への対応含め、とても良い経験になりました。設計監修という立場で、当社設計の培ったノウハウとNHAによる設計で、素晴らしい園舎になったと確信しております。
ディレクター 千葉店 釘宮秀多

2018年1月から土地の選定を始めたプロジェクトも4年の歳月を経て、園の教育理念を体現する園舎が実現しました。歴代の担当者につなげていただいたBATONのおかげで玉造幼稚園様の大切な事業に関わることができました。社内外を問わずご協力いただきました皆様に感謝申し上げます。
建築家 株式会社NHA 橋本尚樹氏

敷地をはじめて訪れた時に、とにかく森をあそび尽せる場所にしようと、できるかぎり既存の樹木や地形を生かす提案をしました。建築の内部も周囲のランドスケープも一体的な要素と捉え、古墳や竹林も連続した体験の一役を担っています。建築に裏表をつくらずどこからでも出入りできる楕円形の園舎を発想したのも、「森との関係性を設計する」という考え方からです。
当初、手付かずの森は畏れを感じるほど深く暗い印象であったため、まず子どもを守るために外周に回廊を回し、森と保育室との間に距離をとりました。また開かれた外部とは対象的に保育室の天井は低く抑え、静かで小さな巣にこもるような空間に。遊戯室は森の中の明るい広場のように、北面の大開口に面して配置し天窓も設けました。
完成して2年が経ち、園内の樹々も少しずつ馴染んで枝葉を伸ばしてきました。この園舎は子どもたちと共に時間を重ねて育っていきます。いつか森が園舎を覆い尽くすとき、環境と溶け合ってその境界は見えなくなっているかもしれません。そんな園舎の姿を思いつつ、これからも近くで見守っていたいと思います。
グラフィックデザイナー 日本デザインセンター 三澤デザイン研究室 三澤 遥氏

勾玉に着想を得た不思議な形のシンボルマークは、この森に「いるかもしれない」神聖な何かの存在を感じさせることでしょう。時には象に、時には月や花にも見えるこのマークは、園内のあらゆる場所でまるで精霊のように子どもたちを見守ります。
サインは積み木のように円筒形を積んだり、組み合わせた造形です。クラス名は園内で自生する植物から名付けられました。まだ文字が読めない小さな子どもたちにも、愛着を持って覚えてもらえるようなサインを目指しました。
ランドスケープデザイナー 株式会社 上條・福島 都市設計事務所 上條慎司氏

自分より何倍も大きな木、細やかな地形の変化、光と影のゆらめき。森に触れる喜びを自ら発見する子ども達、発見話を聞く親御さん達の喜び。こんな発見シーンをたくさんイメージし、1つの物語のように束ねた、森に潜む特性と差異とを浮上させた環境のデザインです。
2024年 7月発行
発行:株式会社ジャクエツ
A2074-0700-12886



