J-ARCHITECT
JAKUETS Architectural Design Magazine
Vol.32

石垣のある園庭、大空間が広がる園内
多彩なあそび場がちりばめられた園舎

学校法人 河合学園 幼保連携型認定こども園 伏見かわい幼稚園

Kindergarten building
広い園庭の半分は、掘り下げた「したのひろば」とその土でつくった築山「うえのひろば」で、
上ったり下ったりのあそびができるようにした。

石川県金沢市に開園してから45年の年月を地域の方々と刻んできた伏見かわい幼稚園は、老朽化した園舎を建替え、幼保連携型認定こども園へと移行して新たな歩みを始めました。広々とした園庭には石垣があり、内部はどこでも縄跳びができるほどのびやかな空間。すべてがあそび場と言える豊かな園舎ができました。

高低差のある、自然な園庭にこだわる

石川県金沢市で現在4つの保育施設を運営する河合学園は、金沢高等学校の付属幼稚園として1952年(昭和27年)に創立されました。その一園である伏見かわい幼稚園は1977年(昭和52年)にこの米泉町に開園、2022年(令和4年)には幼稚園型認定こども園に移行し、さらに園舎の老朽化に伴う建替えを経て2025年4月より新園舎で幼保連携型認定こども園として再スタートしました。

長い歴史を持つ河合学園では、こども園への移行を進める最中、世代交代がなされ、次世代を担う河合美枝氏(河合学園・事務長)、隆徳氏(みどりかわい幼稚園・園長)、謙徳氏(伏見かわい幼稚園・園長)のご兄弟がこの建替え事業を手掛けられることとなり、ジャクエツはこども園への移行から建替えまで全般において関わらせていただきました。

建替えでは、元々広い敷地だったこともあり、余裕ある配置が可能でした。近隣の住宅地からは少し離して南北に建物を置き、園バスの移動も近隣を煩わせることなく乗降も安全に行えるよう敷地内に行き来できる道を設けました。

建物の大きさや保育室なども、規定の面積に対して1、2割広く余裕を持たせて計画しています。広い空間であそばせたい、そして、園児数の変動に柔軟に対応できるようにしたいという園からの要望でした。

全体構成は慣れ親しんだ旧園舎と大きく変えず、中央に廊下、両側に保育室を設けたシンプルなスクールスタイルとなっています。エントランスホールを兼ねた体育館から廊下へ移動し、園庭にすぐ出られる1階には4歳児と5歳児の保育室、落ち着いて過ごせる2階には乳児、2歳児、3歳児の保育室を置いています。

敷地半分を占める広い園庭の周囲は、以前は植栽で囲まれていましたが、建替えでは外からも園児があそぶ様子が見えるようオープンにしました。

そして、大きく変わったのは、園庭半分を起伏のあるつくりにしたことです。上がったり下ったりという上下の運動ができる仕掛けがほしいという先生方の声を反映したもので、人工物や遊具を使わず自然に近い庭にしたいという要望から、一部を掘り下げその土で築山をつくって2メートルのレベル差を出しました。

石垣はマストの要望で、施工はとても難しいものでしたが、先生方が描くイメージを写真などで共有しながら実現に漕ぎ着けることができました。

Stone Wall
石垣は、自然の形のままの石をランダムに積んでいる。傾斜45度の石垣を果敢に上っていく子ども達。慣れた様子で危なげなく上る。
lawn
芝生の斜面は、段ボールで滑り台に。滑り下りてはまた上ってを嬉々として繰り返す。先生も一緒に芝だらけになってあそぶ。
Field
「したのひろば」の隣にある「みんなのはたけ」。季節の野菜を育て、みんなで食べる。

連続する広いあそび場、自由度の高いつくり

金沢は冬が長く雨も多いという気候から、内部で過ごす時間が長くなるため、プランを考える上では、のびのびとあそべる場をたくさん用意し、それをどう繋げるかがポイントとなりました。まずその起点となるのはエントランスホールを融合させた体育館です。

設計前、旧園舎で保育調査を行った際、エントランスホールで子ども達が縄跳びをしていたところから発想しました。旧園舎の体育館は2階奥に位置し、日常のあそび場としてはあまり使われていなかったので、日々使える体育館にして欲しいという先生方の要望もあり、毎日誰もが必ず通る玄関自体を体育館にしました。

玄関から園庭側に回した土間に沿って低い靴収納を配置し、エントランス機能を持たせています。デッドスペースとなる階段下にはデンをつくり、秘密基地のようなあそびの場にしました。

体育館から続く廊下も、広々とした旧園舎の廊下を踏襲したもので、日々のあそび場となるよう長く広くというコンセプトでつくりました。上下階でコミュニケーションが取れるよう吹抜けにしています。

絵本コーナーは、幼保連携型認定こども園となり、ここで長い時間を過ごす子ども達のためにゆっくり本が読める場所が欲しいという先生方の要望から、廊下というオープンな場所でも落ち着ける空間を用意しました。

1階、園庭側に配置した4歳児、5歳児保育室は、規定よりも余裕のある広さをもたせながら、保育の内容によって柔軟に使えるよう可動式のパーティションで仕切りました。オープンにすればワンルームで使える自由度の高いつくりです。園からの要望にもあった、園児数の変動にも対応することが可能です。

gymnasium
エントランスホールを兼ねた2層吹抜けの体育館は、とにかく広い開放的な空間。
あそびを選ばず子ども達を包み込んでくれる。
Rugby Clinic
園長が教えるラグビー教室。
Doma
玄関から園庭側へL字に土間が回る。土間に沿って上履き収納を置き、下足は床の下に収納する。
DEN
2階への階段下に設けたデン。奥に入ると内部は2層になっていて、ネット遊具も設置した。
Hallway
幅を広くとり、2層吹抜けにした廊下は、まるで長い遊戯室のような開放感。
2階に設けたネット遊具は上下階をつなぐコミュニケーションツールにもなる。
Picture Book Corner
1階廊下に設けた絵本コーナー。ちょっと凹ませた家型のスペースは籠もれる空間にもなる。
5-Year-Olds Classroom
5歳児保育室。可動の仕切り壁で2室にもワンルームにもできる。
4-Year-Olds Classroom
4歳児保育室。こちらも可動の仕切り壁で3室、2室、ワンルームも可能。
日常の保育はもちろん、その年々で変動のある子どもの人数にも対応できるつくりにした。

2つの動線で使い勝手よく、時代の変化にも備える

広い園舎、長い廊下は、動線としてはデメリットになってしまうこともあります。そこで、メインの玄関とは反対側にもう一つ出入り口を設け、そこを2階に保育室のある低年齢児と、外部から訪れる方の玄関としました。風除室を兼ねる広いピロティから入ってすぐのロビーから階段につながる動線です。

階段下にはデンを設けて、絵本コーナーをつくりました。そして、ロビーの隣には子育て支援などに活用するプレイルームを置いています。メインの玄関とは別の動線を設けておくことで、今後、より広く地域に開いた活動を行う場合にも対応できるようにしました。

2階は、上がってすぐのところに0・1歳児の保育室を配置しました。奥には乳児専用のテラスを設けて安全にあそばせることができるようにしながら、廊下側には閉鎖的にならないよう大きな出窓をつくって1階であそぶ子ども達とコンタクトがとれるようにしました。

階段を挟んだ反対側には、2歳児、3歳児の保育室を並べています。2歳児保育室はトイレと前室を間に置いて2室設けています。収納などを前室にまとめることによって保育室全体があそびの場となるようにしました。3歳児保育室は引き戸で3室に仕切りました。

3歳児までは空間をしっかり分けつつ、引き戸の開いているところから隣のクラスの様子が見えるようにしました。2階廊下にはネット遊具を、園庭側には屋上園庭を設けて、あそびの場をふんだんにちりばめています。

Lobby
もう一つの玄関、1階奥にある乳児用ロビー。2階に保育室のある乳児と2歳児、そして預かり保育や子育て支援など園外からの訪問者の玄関となる。
Picture Book Corner
階段下にはデンがあり、絵本コーナーになっている。
Nursery Room for Infants and Toddlers (0-1 Years Old)
0・1歳児保育室。乳児の保育がしやすいようシンクや小上がりスペースなどを設け、面積を広くとった。
部屋からすぐ出られる専用のテラスもある。
廊下側には大きな出窓を設けて、1階の子ども達とコンタクトがとれる仕掛けもつくった。
2-Year-Olds Classroom
2歳児保育室は2室あり、その間(右)に前室とトイレを設けた。
前室にはパススルーなど必要な機能をまとめて設け、保育室はすっきり広くあそベるようにした。
引き戸を開放すれば、廊下と一体の広いあそびのスペースとなる。
Net Play Equipment
2階廊下に設けたネット遊具。
playground
広い園庭は、走り回れるフラットなスペース(左)と、起伏のあるスペース(右)を設けた。
人工的な素材は極力使わず、自然な環境を心掛けた。

DATA 学校法人 河合学園「伏見かわい幼稚園」

所在地石川県金沢市米泉町
主要用途幼保連携型認定こども園
定員205名
竣工2025年3月
……
構造鉄骨造2階建て
敷地面積3471.46㎡
建築面積1528.93㎡
延床面積1987.18㎡

IMPRESSION ─建設を終えて

学校法人 河合学園 幼稚園型認定こども園 みどりかわい幼稚園

みどりかわい幼稚園 園長 河合隆徳氏(左)
学校法人 河合学園 事務長 河合美枝氏(中)
学校法人 河合学園 幼保連携型認定こども園 伏見かわい幼稚園 園長 河合謙徳氏(右)

Principal

園舎が変わることによって保育も変えていけたら

伏見かわい幼稚園の建替えは、当法人において、私達三兄弟が世代交代してから初めての大きな事業となりました。右も左もわからない状況からのスタートでしたが、保育施設で豊富な実績を持つジャクエツさんに幅広くご指導いただきながら進められたことは、本当に心強かったです。

幼保連携のタイミングと重なったこともあり、補助金関連の申請から、私達がイメージしにくい低年齢児保育のことまで、さまざまに相談を重ねました。その中で、子ども達が自然と興味を持ち、いろいろなあそびに取り組める仕組みや仕掛けを一緒に考えていただきました。

プランについては、旧園舎での保育をベースに考えていただきながら、「こうしたらもっと遊びやすい」「使いやすい」といった新しい視点も加えていただきました。私達が考えていた以上のことや、思いもよらなかった発想まで含め、多くの提案をいただけたことはとてもありがたかったです。

中でも、少子化など目まぐるしい社会変化に建物としても柔軟に対応できることを望んだことに対して、広い体育館を地域に開放するなど、将来的に多様な活用に対応できるよう、メインのエントランスは伴や扉の構造も工夫していただきました。

体育館の配置自体も旧園舎では2階の奥にあり、目的がないと使いにくい場所でしたが、新園舎ではいつでも自然に使える場所に生まれ変わりました。こうした柔軟なつくりによって、多様な活動を受け入れられる園舎となっています。

園庭についても、現場の先生方からの要望をもとに、高低差を活かした上下の運動ができる場所を取り入れました。以前の園庭は平面的で広さはありましたが、滑り降りたり、目線を変えたりといったあそびがしにくいものでした。

クライミングウォールではなく石垣を採用したのは、意図的に整えられた人工物ではなく、規則性のない自然素材で、子ども自身が「どう掴むか」「どう使うか」を考えながらあそべるようにするためです。この点は園庭設計の中で非常に重要視した部分でした。難しい要望でしたが、ジャクエツさんや施工会社さんにうまく実現していただきました。

この建替えにあたっては、園舎の変化によって保育そのものもよりよく変化してほしいという思いがありました。教育は、従来と同じことを続ければいいわけではありません。この園舎は保育室一つをとっても、つなげたり区切ったり、廊下と一体化させたりと自由度の高い空間になっており、今後はそれをどう使いこなしていくかが課題だと思っています。こうした新しい園舎が、現場の先生方にとって保育やその環境を考えるきっかけになればと思っています。

JAKUETS

設計士 東京設計事務所 建築設計課 八ッ藤美令

Designer

広い敷地ならではの難しさもありましたが、お三方や先生方と丁寧に話し合いを重ねることで形になった園舎です。ゆとりとあそび場のある環境が、先生方や子ども達にとって心地よい日々につながることを願っております。

設計監修 福井本社 建築設計課 佐伯祐樹

Design Supervision

歴史ある学園における、幼稚園から幼保連携型認定こども園に移行するにあたり、設計業務のみならず、自治体及び認可関係の対応など、様々な業務に携わらせていただきました。新たな学園運営に携わる機会をいただき、心より感謝申し上げます。

ディレクター 金沢店 森重優希

Director

金沢市内で支持されている法人様の事業継承のタイミングでの事業でした。慎重な判断をされる場面で、ジャクエツの事業計画・園舎設計の考えに共感いただき、ジャクエツに頼んで良かったというお言葉をいただけたときに嬉しく思いました。先生方に感謝申し上げます。

2025年 10月発行
発行:株式会社ジャクエツ
A2105-0700-14300